「歌がなかったら、自分はずっとシャイなままだったかもしれない」と話すのは、俳優で歌手の山崎育三郎さん。11月に公開される映画「ミュジコフィリア」では、若き天才作曲家として将来を嘱望される貴志野大成(きしの・たいせい)を演じている。さそうあきらさんの同名コミックを原作に、「音楽とは何か」という深遠なテーマに挑んだこの作品について、そして自身と音楽との関わりについて聞いた。
「人前に出るのが苦手だった」ミュージカル界のプリンス
山崎さんは1986年、東京生まれ。2007年にミュージカル「レ・ミゼラブル」のマリウス役に抜擢され、一躍注目を集めた。近年はミュージカルにとどまらず、ドラマや映画、歌手、声優など多方面で活躍している。
「ミュージカル界のプリンス」とも称され、NHKの朝ドラ「エール」ではそのイメージ通りの華やかかつコミカルな役を堂々と演じ切った山崎さんだが、実は幼い頃は人前に出るのが苦手だったという。
「人に見られるのも嫌いで、いつも母親の後ろに隠れているような子供でした」
そんな引っ込み思案で甘えん坊の山崎さんを心配した母の勧めで、歌を習い始めた。するとめきめき頭角を現し、ミュージカルで主演も務めるように。もはや「人前に出るのが苦手」なんて言っている場合ではなくなった。
「シャイな部分は今もありますが、もう何も気にしなくなりました。人からどう見られ、どう思われているかなんていちいち気に病んでいたら、舞台では何もできませんから」
ポジティブで前向きに生きている憧れの先輩たちからも日々刺激を受けているといい、「僕もそうありたいと思っています」と力を込める。
共振・共感する瞬間が音楽の醍醐味
「ミュジコフィリア」で演じる大成は、世界的作曲家である父(石丸幹二)の呪縛から逃れられず、思い悩むキャラクター。映画では、苦しそうに音楽と向き合う姿が印象的に描かれている。
「大成は自分の殻に閉じこもり、ほとんど笑いませんよね。音楽家としては、僕とは正反対のタイプです。孤独を募らせる大成もきっと苦しいのでしょうが、あまり共感はできません(笑)」
「僕が音楽をやっていて、好きだな、楽しいなと感じるのは、オーディエンスの皆さんやオーケストラ、指揮者と共振・共感する瞬間です。音楽の最大の魅力は『互いに寄り添いながら一緒に奏で、作っていくこと』だと思っていますので。大成はいつも自分を押し殺して固まっているから、その瞬間をキャッチできないのかもしれませんね」
音楽を続けてきたから辿り着けた場所
本作では、京都の芸術大学を舞台に、音楽を通じて若者たちが成長していく姿が描かれる。「僕もまさに、音楽と共に成長してきました」と山崎さんは自身の半生を重ね合わせる。
「音楽でつらい思いもしました。変声期で思うように歌えなくなり、オーディションでは自分が前に主演した作品のアンサンブルで落ちたこともあります」
「でも続けてきたからこそ、朝ドラ出演や全国高校野球選手権大会の開会式(甲子園)での独唱、紅白歌合戦、日本武道館公演など、たくさんの夢のような場所に立つことができました。音楽は僕にとって、なくてはならないものだと思っています」
京都での撮影がコロナ禍での癒しに
2020年は、出演予定だったミュージカル「エリザベート」が全公演中止になり、「エール」の撮影も中断されるなど、コロナ禍に苦しめられることも多かった。だからこそ、本作の撮影で京都に1カ月滞在したことが癒しにも刺激にもなったという。
「『ミュジコフィリア』の世界観をつくってくれたのは、歴史や文化の薫る京都の街そのもの。僕たちはただそこに身を委ねて、穏やかな気持ちで演じればよかった。撮影場所は有名な観光地ではなかったのですが、また来たいと思える素敵な場所ばかりでした」
「ミュジコフィリア」は11月12日に京都先行公開、19日から全国公開。