障害者の前向きな生き方や、障害を乗り越えて努力する姿に「感動」や「勇気」をもらうという、無意識的な差別構造は「感動ポルノ」と称されることがある。その意味で言えば、ドキュメンタリー映画「ラプソディ オブ colors」は明確にアンチ(反)感動ポルノである。ここで描かれるのは、障害がある人、ない人、グレーな人がわいわい集まる「バリアフリー社会人サークル・colors」のごった煮のような力強さ。タクシードライバーをしながらcolorsに入り浸り、1000時間以上カメラを回したという佐藤隆之監督は「生き生きと躍動する人間のむき出しの面白さを感じてもらいたい」と話す。
東京都大田区にある3階建ての小さな民家。3階には重度の知的障害がある男性がひとり暮らしをしており、2階はカメラマンやヘルパー、ミュージシャンがシェアして暮らす。colorsはその1階。学習会や素人寄席、単なる飲み会など、夜な夜な「何か」が行われ、個性豊かな生がほとばしる場所だ。
colorsを主宰するのは、頚椎損傷と脳の血腫を抱えるシングルマザーの石川悧々さん。障害者平等研修のトップファシリテーターとしても活躍する強烈な個性の持ち主で、聖女とも魔女とも目される。そしてもう1人の重要人物が、地域の障害者福祉の立役者でありながら、異様にだらしない風体の中村和利さん。NPO法人「風雷社中」の理事長でもあるが、石川さんとの間には何やら他人が入り込めない独特の関係性があるらしい。
この2人が生み出す不可思議な磁場(colors)に吸い寄せられてくるのは、脊髄小脳変性症の人や脳性麻痺の人、職場で虐待を受けている人、義足のシンガー、ただの呑兵衛、食いしん坊…と多種多様。佐藤監督はcolorsの営みに自らも身を委ねながら、そんな人たちが織り成すカラフルな人間模様に至近距離からカメラを向け続ける。
「これを『普通』と感じず、映画を見て『そうそう多様性が大事だよね』などと思う人は、マジョリティというヘドロに頭のてっぺんまで埋もれていて、世界がもともと『色んな色々』に満ち溢れたワンダーランドなんだということを知らない寝ぼけた人だろう」
本作に寄せた中村さんの言葉は、痛烈の一言。確かに安易な感情移入を許してくれる“やさしい”映画ではない。佐藤監督は「テーマも結論もないし、人間はこういうものだと規定もしていない。でも、だからこそ面白いんです。人間なんて、結論が出ないからこそ生きているわけですから」と笑う。
「いろんな人がいて、そこに多彩な色を表す『colors』という言葉がある。一見よくできているようにも思えますが、色には汚い色や毒々しい色もありますからね」
狂騒的な日々はしかし、colorsが入居する建物の解体という予想だにしなかった終わりを迎える。カラフルな世界は、人々は、石川さんと中村さんは、果たしてどこへ向かうのか。「感動ポルノは嫌い」と言って憚らない佐藤監督が放つ、いびつで不器用な人間賛歌だ。9月25日から大阪のシネ・ヌーヴォ、10月9日から神戸の元町映画館、10月15日から京都みなみ会館で公開。