根底に流れるのは、日本ミステリー界巨匠の血。
2003年のエイプリルフールの深夜に突如放送された『放送禁止』。“ある事情で放送が中止となったVTRを再編集して放送する”という設定のフェイクドキュメンタリーで、テレビシリーズ&劇場版が製作されるほどの人気作になった。3月13日には9年ぶりの復活作である映画『放送禁止 ぼくの3人の妻』が公開される。
放送当時の反響はイマイチ
今でこそ伝説的深夜番組との誉れが高いが、生みの親であり全シリーズを手掛ける長江俊和監督(59)は「一夜限りの特番的感覚で作ったものが、まさかここまで続いてさらに劇場版で大復活するとは…」と根強い人気に驚きを隠さない。
第1回の放送は深夜2時という極めて深い時間帯に加えて、SNS未発達の時代。視聴率も反響もそこまであるとは言えなかった。だが、ある層がこの番組に素早く反応を示したという。
「一般視聴者からの反響よりも、他局のプロデューサーや映像関係、小説家などのクリエイターからの評判がすこぶる良くて。僕を含めた作り手たちがフェイクドキュメンタリーという手法にハマってしまった」
ストーカーや隣人トラブル、大家族など本物のドキュメンタリーの題材にもなりえるテーマで怪作を連発。DVD化もされ、シリーズを積み重ねるうちにさらに多くの人がその面白さに気が付いた。
『放送禁止』は、創作ドラマとドキュメントをハイブリットさせたフェイクドキュメンタリーというジャンルを日本に根付かせた先駆的シリーズとなり、後進に与えた影響も計り知れない。長江監督による小説『出版禁止』『掲載禁止』などの禁止シリーズは累計30万部を突破する人気を博している。
一夫多妻制ハーレムと夫殺し
長江監督は9年ぶりの復活理由について「フェイクドキュメンタリーというジャンルの認知拡大が大きいです。当時“やらせだ!騙された!”と困惑されていたものが、昨今では受け取る視聴者が“これは作り物”と理解した上で楽しんでくれるようになった」と時代の変化を挙げる。
確かに今ではYouTubeでもフェイクドキュメンタリーは人気のコンテンツだ。実写映画化された『変な家』『近畿地方のある場所について』のベストセラーや、SNS上で考察が沸騰した『イシナガキクエを探しています』『飯沼一家に謝罪します』などによって、その表現スタイルも広く浸透したと言える。
復活作のテーマは、一夫多妻制。WEBデザイナーの萩原紘二と共同生活を送る3人の女性に密着したVTRから、夫殺しの真相を炙り出そうというもの。数々の怪奇現象の発露に、物語はオカルトワールドへ突入するのかと思いきや…ドロドロした男女の情念が生み出すミステリーへとツイストする。
横溝正史イズム
恐怖の根源を非科学的な事象ではなく、人間に求めるスタイルは復活作でも健在。そのこだわりの根底には長江監督がリスペクトしてやまない、ミステリー作家・横溝正史への偏愛がある。
1946年発表の『本陣殺人事件』で日本独自の推理小説の文脈を確立し、名探偵・金田一耕助を生んだ巨匠。長江監督は横溝ブームの洗礼を浴びた世代の一人で、『八つ墓村』『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』の映画ポスターを部屋中に貼って悦に入る少年だった。夏休みの工作の宿題では、日本家屋のプラモデルを改造して“俺流『本陣殺人事件』トリック”を再現し、担任をビビらせた筋金入りだ。
「横溝が生み出すミステリーの面白味は、オカルトの仕業に見せかけて実は人間の起こした殺人であるという、日本独特のドロドロした“人コワ”にある。その構造は『放送禁止』を作る上で常に参考にしています」と明かし、「つまり『放送禁止』シリーズには横溝正史の血というか、横溝が描こうとしていたものを自分なりに継承したいと思って作っているんです」と胸を張る。
横溝イズム横溢の『放送禁止』復活作。果たして令和の観客はどのように受け取るのだろうか。