胃ろうの子を持つ母親の悩みに採算度外視で応えた大阪の中小企業 「子どもと同じものが食べられるなんて」と喜びの声が続々

桑田 萌 桑田 萌

摂取・嚥下に障がいがあり、胃に通すチューブ「胃ろう」で食事をする子どもに、「食べる喜び」を伝えたい……。そんな母親の思いが形になり、胃ろうのある子どものためのブレンダーが誕生した。通常ならミキサーなどで作られることの多い胃ろう食。しかし便利性に欠けていたりして、「適したものがない」と悩むユーザーも多いという。

しかし「ユーザーひとりひとりの声にしっかり耳を傾けたい」と、採算度外視で開発しようというものづくり企業が現れ、胃ろうの子どもを抱えるユーザーの念願がかなった。その企業とは、医療・介護現場の業務用ブレンダーを手がけてきた旭株式会社(大阪市東成区)だ。

もともとはビジネス向けのものづくり企業だった同社。あるとき、ミルサーのユーザーであるママたちのこんなお困りごとを聞く機会があった。「子どもの胃ろうのための食事に困っている」「家族全員で同じ食事がしたい」「胃ろうがある子どもにも食べる喜びを知ってほしい」。しかし、「それに適したブレンダーがない」ーー。

その「ママ」とは、胃ろうの子どもを持つ母親が集まる「ママと子の胃ろう食推進委員会」の久保詩織委員長と斉藤美由紀副委員長。旭に連絡したのは、2018年のことだ。

2人とも、当時は他社の製品を使用していたが、使用中に焦げ臭くなったり、外出時の持ち運びが困難であったり、細かくペーストできない食材があるなどの不便性を感じていたそうだ。また、外出時には専用の栄養剤やレトルトをメインに摂取させていたが、栄養素が不足したり、家族と同じものが食べさせられなかったりすることが悩みだったという。

そこで同社は、光山卓也社長の一声で開発をスタート。最も注力したのは、「刃」の試作だ。どんな食べ物でもペーストできるようにするため、固い肉や繊維質の野菜、唐揚げ、鳥のキモなど、あらゆる食材で実験を重ね、30を超える刃の試作品を作った。この工程だけで1年を要したそうだ。

ほかにも、加水を抑えることで栄養素を維持させたり、アウトドアでも使用できるコンセントのいらない充電式にしたり、静音・小型・軽量で周囲に気を使わず使えるようにしたりと、外出先でも気兼ねなく作れることを意識した。そうして生まれたのが、「アサヒスーパーブレンダー mini Portable」だ。

これまで積み重ねてきた同社の技術を全投入するべく開発に時間をかけたが、その間に利益が出るわけではない。まさに「採算度外視」なわけだが、そこまで力を注いだ理由は何なのか。 

「これまで、たくさんの方々の生活に貢献したいという思いから調理機器を手がけてきました。幸いそちらで利益を得ていることもあり、これからも社会貢献をすることで誰かのお役に立てれば…と思い、全力で取り組ませていただきました」 

実際に同社にお願いした久保さんと斉藤さんは「生活が変わった」と喜ぶ。

「外食時にブレンダーを持っていき、同じものが食べられる」
「自動停止機能のおかげで手動の必要性が減り、時間を効率的に使えるようになった」
「委員会メンバーも続々とブレンダーを購入して『前には戻れない』と言っている」

など、ポジティブな声が続々と集まっている。 

なお、この商品は発売前にクラウドファンディングを実施し、目標金額の614%(6,147,000円)を達成した。購入を検討の場合、旭株式会社の「お問い合わせ窓口」まで。

■旭株式会社:https://旭株式会社.com
■同社お問い合わせ窓口:https://旭株式会社.com/meintenance/

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