車椅子の方の駐車優先スペースの必要性を訴える切実な思い 理解ある社会づくりに大切なことって?

竹中  友一(RinToris) 竹中 友一(RinToris)

「車椅子ユーザーの人は、車椅子の出し入れ、乗り降りにこれだけのスペースを要します。隣に停めてきた車、健常者のカップル2組。悪びれる様子もなく楽しそうに降りていきました。。。通常の駐車スペースは空いていたのに。。。楽だからと車椅子スペースを使うのは控えていただきたい。切実です。」

この言葉とともに、車椅子を自動車に収納する様子を撮影した動画を投稿したツイートが話題になっています。動画を撮影したのは、エアリアルアーティストとして活動するHiROKOさん(@roco_iikibun)。

エアリアルとは、サーカスなどで行われる空中パフォーマンスのこと。世界的に有名なシルク・ドゥ・ソレイユのほか、近年では日本のミュージシャンのコンサートパフォーマンスなどでもよく取り入れられています。

そのような世界に身を置くHiROKOさんが、なぜこの動画を投稿したのか。そこには、障がいのある方への理解を深めたいという、HiROKOさんの強い思いがありました。

動画を見ると、車椅子を自動車に自動収納してくれるオートボックスの仕組みが分かります。

これだけ見ても、車椅子の方にはとても便利な装置であることが分かります。機械が動き、スムーズに車椅子が収納される様子には、ハイテク感さえ感じられます。リプ欄には、「初めて見ました」「シンプルに『すげー!!』って思いました」といったコメントもありました。

しかし、HiROKOさんがこのような動画を投稿したのは、単にこういった機械を紹介するためではもちろんありません。ある切実なお願いをしたかったためでした。

 駐車場の優先スペースの必要性。障がいがある方への理解を訴える

動画に映っているのはHiROKOさんの実の弟さんだといいます。

体操で中学・高校までナショナル選抜に選ばれるなど、華々しい功績をあげてきましたが、大学1年の時に練習中の事故で首から落下し、不全麻痺となってしまいました。しかしその後、リハビリを受け、大学院まで進み、一般企業に就職。現在は、週2日ヘルパーの援助を受けながら、1人暮らしをしています。

事故による不運に見舞われながらも、社会人として自立しているHiROKOさんの弟さん。とはいえ、外出時には介助してくれる人や機械が必要。オートボックスは車での外出にはなくてはならない装置です。

動画からも分かるように、実際にオートボックスを使用するためには、車の扉を全開にしたり、オートボックスを展開したりするため、広いスペースが必要になります。そのため、駐車時には優先スペースの利用が欠かせません。

しかし、その優先スペースが一般の方に使用され、車が停められないことがあるといいます。優先スペースが利用できなければ、車椅子の方は物理的に乗降車ができなくなってしまいます。

「楽だからと車椅子スペースを使うのは控えていただきたい。切実です」と、HiROKOさんはツイートを通じて訴えています。

未だに根強い車椅子に関する理解のなさ

HiROKOさんによると、他にも車椅子やオートボックスに対しての理解がないことを感じる場面があるそうです。

HiROKOさんの弟さんは、不全麻痺の関係で上半身の力が弱く、手でものを握ったりすることもほとんどできません。そのため、車での外出時にはオートボックスを利用しているという背景があります。

しかし、そのような事情を分かっていない方から、オートボックスについて富裕層だからとか、お金にものを言わせて楽しているというふうに、心無いことを言われることもあるのだそうです。

人によって抱える症状や障がいの程度は大きく違い、望まれる支援の仕方は異なるのです。同じ車椅子の方でも、同じような介助方法やシステムが用いられるわけではありません。

「この辺の事情もご理解いただけるようになるといいなと思っています」(HiROKOさん)

車椅子の方だけの問題ではない

ご自身のご家族の抱える問題を通じ、駐車場の優先スペースの必要性を訴えたHiROKOさん。

ツイートのリプ欄には、共感のコメントが多数寄せられましたが、中には「これは車椅子の方だけの問題ではない」というご指摘もあります。

実際にリプ欄でも、

「自分が妊娠してる時に優先スペースにお世話になりました」

「 (心臓疾患を抱える友人が)駐車場にて、障害者スペースに停めたところ、他の方からよく変な顔されると言ってました」

「難病持ちです。見た目は健常者に見られます」

といった車椅子ユーザー以外に優先スペースの利用を望む方々からのコメントも多くあり、「見た目で判断しないで欲しい」という意見もありました。

このように、車椅子ユーザーをはじめ、駐車場の優先スペースの利用を求める方は多くいらっしゃいます。しかし、心ない人のために、このような方々が困る事態になると考えると、それは悲しいことです。

「障がいがあろうと無かろうと、必要不可欠な人が必要な時に使える状態にあって欲しいと思っています」(HiROKOさん)

理解ある社会を作るためには?

今回の駐車スペースの件も含め、障がいや困りごとを抱えている人に対して、世間の理解のなさや無関心であるが故に、埋まらない溝はたくさんあるのではないでしょうか。

今後、よりこういった問題に世間がより関心をもち、よりよい社会になっていくためには、どういう対策を取る必要があるのでしょうか。

HiROKOさんに尋ねたところ、2つの返答をいただきました。

「Twitterでのご指摘にもありましたが、学校教育の中でも、教習所などでも取り上げてもらえるといいですよね、正しく知ってもらえる機会があると。一方面からの見方ではなく、いろんな立場の方々の考え方や、理解、思いやりなど周知されるといいなと思います」

「また、(そのような周知があった上で)それでも必ず心ない行動をされる方はいると思います。悪意を持った方が後を絶たない限り、辛い悲しい思いをする方はでてきてしまうので、そのような方には法的な罰則を課すことも悪い事ではないのかなと思います」

また、HiROKOさんの活動についておうかがいしたところ、NPO法人「スローレーベル」を教えていただきました。スローレーベルによる「スロー・サーカス・プロジェクト」は、東京2020パラリンピックの開会式に関わるなど、健常者と障がい者の垣根をなくした活動を展開しており、HiROKOさんもそのメンバーの一員です。

  ◇  ◇

障がいなどのマイノリティへの理解はまだ十分とは言い切れず、まだ世間では配慮のない行為や心ない発言が後を絶ちません。しかし、少しずつでも理解を深まることを信じて活動していくことが、よりよい社会づくりにつながっていくのではないでしょうか。

HiROKOさんのTwitterはこちら→https://twitter.com/roco_iikibun

スローレーベルの公式サイトはこちら→https://slowlabel.info

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