来年の北京五輪は「第2のモスクワ五輪」となるか 中国との対立をさらに加速させる可能性も

治安 太郎 治安 太郎

東京五輪のことは、中国国内でも毎日のように報道されていた。中国勢が多くのメダルを獲得したこともあるが、特に、卓球の男女混合で「卓球大国」の中国が日本に敗れるという波乱は大々的に報じられ、ネット上でもコメントが多く寄せられていた。しかし、中国が東京五輪を大きく報じる理由は、単に選手たちの活躍だけにあるわけではない。

これまで中国は東京五輪を強く支持する立場を堅持してきた。中国では半年後の2022年2月に北京冬季五輪が開催されるため、東京五輪を北京五輪の前哨戦と捉えていると言えよう。感染拡大が止まらない新型コロナウイルスの問題もある。仮に、東京五輪が中止に追い込まれていれば、今後は北京五輪の安全性が議論される可能性が高い。習政権としてはそれだけは避けたいので、東京五輪の今年開催を強く支持してきた。要は、習政権には北京五輪を“人類が新型コロナに勝った証”にしたい狙いがあるのだ。

しかし、そのような思惑がうまくいくとは限らない。米国ではバイデン政権となり、米中の対立は、単なる2国間の問題から、欧州や日豪印などを含んだ「自由民主主義国家VS中国」の構図に拡大している。それにあわせて、北京五輪を外交的にボイコットしようとする動きが見られる。

例えば、米国議会下院のペロシ議長は5月中旬、香港国家安全維持法やウイグル人権問題などを理由に、北京五輪の開会式や閉会式の際、各国に選手団以外の首脳や政府関係者の参加を見合わせる外交的なボイコットを行うよう呼び掛けた。また、EUの欧州議会は7月8日、習政権が新疆ウイグル自治区での人権侵害や香港での非民主化政策を停止しない限り、習政権からの開会式招待などを辞退するよう加盟国に求める決議を採択した。バイデン政権の誕生とウイグル人権問題は、欧州の中国離れを加速化させている。

冬季五輪は夏季五輪と比較しても規模は小さく、参加国数も少ない。そして、冬季五輪の全参加国に占める欧米諸国のシェアは極めて高いことから、2022年のイベントを大々的に成功させるにあたり、習政権としても欧米との関係悪化はできるだけ避けたい思惑もあるだろう。しかし、この「自由民主主義国家VS中国」との対立は既に後戻りできないところまで来ている。

たとえば、英国のウェレス国防相は7月下旬、今年9月に空母打撃群を日本に寄港させ、今後は哨戒艦を恒久的にインド太平洋地域に展開し、数年以内に沿岸即応部隊も展開させる方針を発表した。EUを離脱した英国は新たな国家ビジョンとして、政治経済的にインド太平洋地域への関与を強める方針を固めており、中国への対抗姿勢も打ち出している。英国の“恒久的”なインド太平洋への関与は中英対立の長期化を予測させる。また、フランスやドイツ、オランダもインド太平洋に艦船を派遣する方針を打ち出し、最近になってインドも南シナ海に海軍部隊を派遣する方針を明らかにしている。

東京五輪後には北京五輪へのカウントダウンが必然的に始まる。五輪の政治化は避けなければならないものだが、北京五輪がこういった政治対立の標的となる可能性は高い。米国や欧州だけでなく、中国も反外国制裁法を可決するなど協力や歩み寄りを示す姿勢はほぼ見せておらず、当事者間の溝が深まれば、北京五輪の偉大な成功を掲げる中国に対し、欧米諸国が外交的ボイコットなどで揺さぶりを掛けてくることは想像に難くない。

欧米諸国にとって、選手派遣を断念することはなくても、外交的ボイコットは十分にあり得る選択肢だろう。北京五輪を巡る情勢を見れば、米ソ冷戦時代における米国や日本などがボイコットした1980年のモスクワ五輪が思い浮かぶ。北京五輪は第2のモスクワ五輪となるのだろうか。

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