新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、第5波への警戒が高まっている。政府は7月12日から、東京都に4度目の緊急事態宣言を発出する方針で、このままでいけば、緊急事態宣言中での五輪開催という前例のない事態となる。一方、反五輪の声も依然として根強いなか、今回の緊急事態宣言はそれにさらなる拍車を掛ける恐れがある。
緊急事態宣言とは文字通り緊急であり、基本的には連発されるべきものではない。しかし、連発され続けることでその発出されるハードルは下がっている。今回の発出には何ら重みを感じなかったのは筆者だけだろうか。
では、なぜ菅政権は五輪を中止にできないのだろうか。これまでのプロセスを見ていたら、五輪開催の是非は検討事項にすらなっていないように感じる。その理由については、国内的な視点でみると菅政権のやり方は理解しにくいが、国際的な視点に立つと、いくつか考えられる。
まず、当然だが経済効果である。現在の状況ではどこまで満足できる経済効果が生まれるかは分からないが、中止するよりかは無観客開催でも経済効果が見込まれるとの思惑があることは間違いない。そして、観光立国を目指す日本としては、コロナ後の外国人観光客の復活を想定して、東京五輪を利用して日本を内外にアピールしたい狙いもあろう。
しかし、それ以上にはっきりした理由に、IOCとの関係がある。これまでのIOCのやり方には国内でもさまざまな意見があろうが、オリンピック業界における中心人物であることに変わりはない。仮に、菅政権が日本人の多くが反対しているから延期(もしくは中止)にしたいとIOCに伝えるとなれば、IOCは日本に不信感を強く抱くようになろう。今後10年、20年、50年後に再び日本でオリンピックを開催したいとなった時、IOCとの良好な関係は極めて重要となる。
また、上記に関連するが、日本国内では感染再拡大に強い懸念が示されているが、世界からみれば日本はまだまだ感染を抑え込んでいるといえる。特に、オリンピック業界を陣取っている欧米諸国と比べ、日本の被害規模はまだまだ限定的で、欧米諸国は日本の状況を怖いとは思わないだろう。よって、菅政権が中止や延期を申し出れば、“日本はまだまだ感染を抑え込めているのに何を言っているんだ”、“全然できるじゃないか”などと疑問視されることは想像に難くない。現在の被害規模も、菅政権が延期や中止に積極的になれない理由であろう。
そして、国際社会でのイメージダウンも考慮されている。IOCだけでなく、世界各国で中止論が大きくないなか、ホスト国の日本が中止や延期を強調すれば、それに懐疑的な見方を示す国々も決して少なくないはずだ。世界各国の選手も五輪に向けて準備や調整をしているなかで、日本がそれにくぎを刺すような行動に出れば、各国から不満の声が聞かれ、外交的な日本のイメージダウンになる恐れもある。
諸外国が関係しないイベントや行事であれば中止や延期の検討は難しくない。しかし、諸外国が絡むグローバルなイベントともなれば、多くの利害が相互作用し、国内的理由だけで全てを決定できない事情がある。