香港民主派の声「リンゴ日報」休刊 「子供たちに教えるために」多くの市民が最後の朝刊を買った理由

治安 太郎 治安 太郎

習政権やその影響化にある香港政府に批判的な論調を貫いてきた香港の新聞「リンゴ日報」が、香港国家安全維持法に違反したとして、24日の朝刊を最後には発行停止に追いやられた。リンゴ日報は民主派の声として多くの香港市民から愛読されてきたが、去年7月の香港国家安全維持法の施行以降、リンゴ日報はその餌食となってきた。8月10日にはリンゴ日報創業者の黎智英氏が国家安全維持法違反で逮捕され、12月11日に起訴された。また、今年に入っては6月17日、リンゴ日報の幹部5人が同法に違反したとして逮捕されるだけでなく、関連会社の資産が凍結され、さらに23日にもリンゴ日報の主筆が同法違反で逮捕された。

今回、一部のメディアでは「休刊」「発行停止」の言葉が使用されているが、これは事実上の「廃刊」「発行禁止」と言っていいだろう。これまでの習政権による香港民主派への圧力は、民主派議員や民主派デモの代表者などの逮捕という形で示されてきたが、今回、その最大の媒体が破壊されたことは大きな転機となり、今後、さらに拍車が掛かる恐れがある。現在社会において、世論や市民の声を形成するのは新聞とネットメディアであるが、その片方がなくなったことで、当局によるネット上の監視やアクセス制限などがいっそう強化される可能性がある。

24日、香港では最後の朝刊を買うために多くの市民が朝から列に並んだ。中には1人3部までと制限する店もあったという。これまでのメディア情報をみてくると、「最後の朝刊だから」と大事そうに買う市民の姿もあったが、「子供たちに教えるために買った」「香港にはこんな時期があったと次世代に継承するために買った」と香港の将来を見据え購入した市民の姿は印象的だった。

これまで筆者は仕事で何度も香港を訪れてきたが、香港の一国二制度が一国一制度に変わったと強く感じたのは2019年9月に訪問した時だ。ちょうど逃亡犯条例を巡って市民のデモが相次いだ時期だが、夜に地下鉄に乗っていた際、香港島の銅鑼湾駅(コーズウェイベイ)からデモ隊の若者たちが乗り込んできて、「香港の自由を守る」などと大きな声で叫び、一部の周辺乗客が拍手をしていた姿を思い出す。また半島側のモンコック付近を歩いていて、日本人だと分かると「日本で今の香港をもっと報道してくれ」と協力を求める若者もいた。それから2年あまり、国家安全維持法の施行によって中国本土と香港の一体化はいっそう進み、もう以前の香港ではないだろう。現在では、半ば諦めの声も少なくない。

香港政府の林鄭月娥行政長官は最近、北京で開催された金融フォーラムの席で、今後香港と中国本土と政治経済的な一体化を押し進め、国際的な金融センターとしての香港を発展させる考えを示した。昔の香港に戻ることは極めて難しく、近年発展が目覚ましい深センや広州との一体化はいっそう進むことだろう。習政権には、深センや広州の経済ハブ化を進めることで香港の地位を低下させる思惑があるといわれるが、これは香港に進出する日本企業にとっても大きな問題だろう。

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