「誰か助けて!」後ろ脚を引きずった猫 善意の募金で大手術成功、一命を取りとめ家族に

岡部 充代 岡部 充代

「てんしば(大阪天王寺公園一部エリアの名称)に後ろ脚を引きずっている猫がいます。猫が苦手で触れません。誰か助けてあげてくれませんか」

 そんなつぶやきが1匹の猫の命を救いました。

 2019年1月、仕事帰りにTwitterを見た山本さんは「ここから3~4駅。行かなきゃ!」と即決。現地で合流して夜遅くまで探しましたが見つけられず、結果的にその日の深夜、同じTwitterを見て駆け付けた方が保護してくれたそうです。ただ、救急病院へ連れて行くと、「後ろ脚が壊死している。切断しないと死んでしまう」と…。

 翌日、保護に携わった数名が集まり、山本さんが信頼する動物病院で再診してもらったところ、同じ診断が下されました。「後ろ脚の壊死が始まっていて毒素も出ている。体中に回ってしまうから、1週間以内に手術しないと死んでしまう。恐らく車にはねられたんだろう」。そう言われれば、手術しないわけにいきません。通常、両後ろ脚の切断手術は30万円程度掛かるそうですが、飼い猫ではないことから、病院の配慮で10万円でと言ってもらいました。

 それでも高額。山本さんたちはTwitterで寄付を募ることにしました。新しく銀行口座を開設する時間はなかったため、休眠口座の残高を「0」にし、「この子のことにしか使いません」と宣言して。すると、続々と善意が寄せられました。

「発見者さんが最初のツイートをしたときから、たくさんの方が気に掛けてくれていました。2日目からはうちで預かっていましたし、専用のアカウントを立ち上げて私が経過報告していたのですが、そこで募金をお願いすると3日で集まったんです。見ず知らずの私たちのことを信用してくれてうれしかったですね」(山本さん)

 中には“詐欺”を疑うようなコメントもありましたが、ほとんどは無事を祈る優しいメッセージだったと言います。

 

 成功率50%と言われていた手術は無事成功。心配されていた自力排泄もできました。さあ、この子をどうするか。

「自力排泄ができなければ素人にお世話は難しいだろうから、生涯面倒を見てくれるNPO法人にお願いしようと話していたんです。でも自力排泄できるなら、たくさんの中の1匹ではなく一般家庭で愛されて幸せになってほしい。Twitterのフォロワーさんの中には手を挙げてくれる方もいました。きっとみんないい人です。でも保護や譲渡の経験がない私たちには見極める目がない。新しい家に行くのがこの子にとっていいことかも分からない。何より私が離れられなくなっていましたし、うちには犬2匹と猫2匹がいて、もう1匹増えてもあまり変わらないかなと。それでうちの子になってもらったんです」(山本さん)

 Twitter上では“てんしば”から取って「てんちゃん」と呼ばれていましたが、山本家の子になったのを機に「れんくん」という新しい名前になりました。

「れんは“蓮(ハス)”という字を書くのですが、ハスの花は汚いお水のほうがきれいに咲くんです。野良時代のつらい経験を糧にきれいな花を咲かせてほしいと思ってつけました」(山本さん)

 

 トイプードルのもこちゃん(14歳)とふわりちゃん(12歳)、三毛猫のみかこちゃん(4歳)、黒猫のくろまめちゃん(3歳)、そして山本さんという“女系家族”に入った蓮くんですが、それはそれは元気に暮らしているそうです。

「過保護になってできることまでできなくするのは嫌だったので、基本的に何をするにもあまり手を出さず、見守るようにしています。今ではキャットタワーにも上れるし、ベッドもソファもよじ上るんですよ。上りにくそうにしていたら少しだけ補助はしますし、前脚への負担には注意していますけど、高いところにジャンプできないこと以外は他の子と何も変わらない。すべて乗り越えてくれた蓮には感謝しかありません。蓮をすんなり受け入れてくれたうちの子たちにも。猫が苦手なら見て見ぬ振りもできたのに、助けを求めてツイートしてくれたことにも感謝だし、寄付してくださった方、いろいろアドバイスをくださった方たちにも感謝です」(山本さん)

 保護から2年を節目として、近況報告していたTwitterアカウントを閉じた山本さん。今回、取材に応じてくださったのは、支援してもらった方々に感謝の気持ちと蓮くんの元気な姿を届けたいという思いからでした。保護当時、推定5か月と言われた蓮くんは、この8月で3歳になります。山本さんの願い通り、きれいな花を咲かせた蓮くん。最初に見つけて保護を呼び掛けてくれたご夫婦と山本さんは、お誕生日会を予定しています。

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