「破天荒でいいんだ」小松政夫さんとの共演で脱皮した高円寺の”怪女優”帯金ゆかりの現在地

吉見 健明 吉見 健明

 舞台を中心に活躍してきた俳優の帯金ゆかりさん(39)が20年目を迎えた2021年、大きく飛躍した。昨年12月に亡くなった小松政夫さんとの共演がひとつのきっかけ。今年3月には地元の山梨県で開かれた朗読劇でメインキャストを務めた。一方でラジオパーソナリティ、雑誌「えんぶ」でコラムも執筆。「出演する舞台では必ず爪痕を残す」という評判通り”怪女優”として旬を迎えようとしている。

 ♪電線に スズメが3羽 止まってた~。

 このおどけた調子の「電線音頭」で一世を風靡した昭和のコメディアン、小松政夫さんが他界したのは昨年12月7日のこと。その集大成と言うべき作品となった2019年10月の舞台「うつつ~小松政夫の大生前葬」で共演した女優の1人が帯金ゆかりさんだった。

 「舞台でご一緒できて、とても幸せでした。私の舞台生活で命を掛けた内容の濃いものになりました。芝居のコツ、笑いの極意。教えていただいたことが今でも脳裏に焼き付いています。あの電線音頭も直接指導してくださり、役者としての大切なことを教えていただきました」

 大物コメディアンとの舞台は初めて。亡くなったときにはショックで立ち直れないほどだったが、イベント事が動き出した今年6月に役者の原点とも言われる下北沢駅前劇場での劇団「動物電気」による「肉のマサオカ~商売繁盛記」の舞台へ。そこでは”小松精神”を生かしていつになく集中して芝居ができた。

 「小松さんからは、役者はあらゆる世の中の事を知らないとね、と教えられました。新聞を読んだり、時に危険な事にもトライして、破天荒でいいんだ、演技は実体験から生まれるものが人を引き付けるんだよ!と言われて意を強くしました」

 実際、舞台も大好評。コロナ禍にもかかわらず客入りは上々だったという。

 「もちろん、満員と言っても間隔を空け、密を避けてルールに基づいての舞台でしたが、無事、お客様にも楽しんでいただきました」

 この「動物電気」には2011年から連続6回出演するなど上京し、舞台に立ち続けて20年。出演した舞台は100回を越えている。劇団「北京蝶々」では2003年の旗揚げ試演会「最初の人と次の人」以降、2012年まで全作品にメインキャストで出演した。

 圧巻だったのは2010年、新宿・花園神社に舞台小屋を立てての椿組「椿版 天保十二年のシェイクスピア」だった。遊郭で戯れる舞台が全て崩壊する演出は痛快そのもの。そこで帯金さんは遊女の役を熱演した。

 「好きだから続けて来られました。セリフを全く与えてもらえない舞台もあったし、骨折をしながら出たことも。10人しか入らないような芝居小屋での舞台に立ったこともありますし、ときに食べ物も買えなくて食事なしで舞台にも上がったことも。舞台がないときは水商売のアルバイトをして、好きなお酒をタダで飲むことも覚えました(笑)」

 その一方で素敵な出会いもあった。いまは閉店したが、池袋で40年の歴史を誇ったスナック「ミラージュ」の律子ママが、舞台の日程に合わせて出勤日を調整してくれたり、お客様が舞台に来てくださるように応援してくれたという。

 ときに荒れた日々もあったそうだが、いまは思い出。9年前に知り合った旦那様の理解があって、帯金ゆかり独自の道が開いたのである。「好きなことをやらせてもらい、サポートもしてもらって本当に感謝です」

 山梨県出身。今年3月にはうれしい出来事もあった。故郷からオファーが届き、YCC県民文化ホールの舞台に立てたことだ。これは山梨市観光大使である作曲家・小林真人氏を中心に山梨に縁のあるメンバーがそろった本格的舞台。音楽の教科書にも載っている小林氏作詞作曲の合唱曲「明日を信じて」「You Can Fly!」をテーマにした朗読劇に帯金さんがメインキャストとして参加した。これから遡ること5年前。高校時代の恩師と地元で2人芝居をしており、そのことが発端になったのかもしれない。

 「劇は子供向けと思いましたが、大人の心にも響く素敵なストーリーになりました。これからもっともっと山梨でも活動していきたい」

 その一方で2020年6月から雑誌「えんぶ」で人気コラムを連載。そのタイトルは世相を斬る、とは真逆の「世相を縫う」というのもユーモアを追求する彼女らしい。さらに、漫画やイラストもこなし、レインボータウンFMのパーソナリティも務める。

 またYouTube「トキワ荘」ではラタン人形相手にシュールな2人芝居「籐京ラブストーリー」をアップ。最近では高円寺が育てた看板女優「3人の帯金ゆかり」を自らが構成、演出、監督、照明、プロデュースして動画をリリースしてもいる。

 「3人の帯金はコロナで舞台が全部なくなって、自分と共演するしかなくなったため、それなら全部やったれい、と逆手に取ったもの。公演できないときはZoomを使って演劇したこともあり、新たな挑戦ができた。芸域が広がったと思います」

 出演した舞台では必ず爪痕を残してきたと自負する。逆境での強さは人一倍。コロナ禍で先行きは見通せないが、11月9日から21日まで上野ストアハウスで劇団「ペテカン」のコント「諸々そこんところ4」に出演する。

 「見に来るすべての方の時間とお金と命を頂戴するのが舞台。だからこそ、妥協せずに一つ一つのステージに全力を掛けたい」

 どうやら舞台俳優として本格化のときを迎えたようだ。

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