笑って許して 誤植ザ・ワールド!?「本の雑誌」の特集が話題 関係者には「どんな怪談本よりも恐ろしい」

山本 明 山本 明

 6月1日に、本の情報誌「本の雑誌」アカウントが「7月号の特集は、『笑って許して誤植ザ・ワールド』です! ゲラを読んで胸を痛めながらも爆笑し、そしてこの号に誤植があったら笑って許してもらえるんだろうかとドキドキです」などという文言とともに書影を投稿し、波紋を呼んでいます。投稿には「どんな怪談本よりも恐ろしい…!!」と戦慄する人もいれば「振り切った企画。編集者や出版関係者は、よほど心臓が強くないとページ開けないのでは」と慮る声も寄せられました。

 1976年の創刊以来、ユニークな視点で本や活字にまつわる情報を発信し続け、業界に独自の地位を確立してきた「本の雑誌」(本の雑誌社/東京・千代田区神田)。内容についてもう少し詳しく同社HPを確認すると、以下のように記されていました。

“書名を間違えようが人名を間違えようが日付を間違えようが、誰かが死ぬわけではない! どんなに時間をかけて丹念に校正しても誤植ゼロとはなかなかいかないのだ。おお、そうだ、誤植が許せる世界になれば、柔和な笑顔と明るい世界平和が待っているのではないか! というわけで、本の雑誌7月号の特集は「笑って許して 誤植ザ・ワールド」。校正・校閲会社「鷗来堂」栁下恭平インタビューから、早川書房の社外校閲者とも言われるシンポ教授のニッチな誤植ネタ、情報誌編集者の恐怖の一文字間違い、漱石全集の誤植に誤植事例集、出版8社の伝説の誤植に実名編集者座談会、そして名前を間違えられた人の激白に読者アンケートまで、愛と哀しみと誤植があふれる25ページ。自分のことは棚に上げ、理想の世界を求める特集なのだあ!”(「WEB本の雑誌」より抜粋、同社の許諾を得て掲載)

 …予告を読むだけで、あらゆる意味でドキドキしますね…!さらに詳しく本企画を担当した同社の杉江由次さんに聞きました。

――思い切った巻頭特集です。企画を思いついた経緯を教えてください。

 2013年9月号で「いま校正・校閲はどうなっておるのか!」という特集をしたことがあったのですが、そのときも結構大きな反響をいただきました。ただそれはどちらかというとプロの目からの反響で、校正校閲者の方や編集者、出版社の方などからの注目でした。

 今回はそこよりももう少し読者寄りといいますか、最近はTwitterなど見ていてもこんな誤植見つけたとか、すごい誤植だらけでホームページに掲載された訂正文だけで何頁になるんだよ、みたいなつぶやきも多く、そういうのを見ているうちに誤植の特集をしたらどうだろうかと思いつきました。

――確かに紙やウェブなど媒体を問わず、誤植(校正ミス)を指摘する声はSNSやウェブニュースのコメント欄でも見かけます。

 ただ、本来誤植というのはあってはいけないものでネガティブな要素として取り上げられるわけですが、まあ間違いがあるというのは大変問題なんですが、それでも間違いたくて間違えている編集者も出版社もおりませんので、そういうつぶやきを見ては私自身も日々大きく落ち込んだりしているわけですが、それをですね、「笑って許して」と本当は言えないんですけど、笑って許してとちょっと笑えるような要素を含んだポジティブな特集にしたのが「本の雑誌」2021年7月号になります。

――そう思う人も多かったからか、投稿に反響がありました。

 今(6月7日現在)Twitter上でも多くの反響をいただいておりまして、予約もかなりあがっております。有名な「例の誤植よりすごいのあるかな?」みたいなコメントも寄せられておりますが、正直もっとすごい誤植の告白がいっぱい載っているので、楽しんで、と言ったらやっぱりいけないのかもしれませんが、満足していただけるのではないかと思ってます。

――現代はデジタル社会で、コミュニケーションのうえでメールやチャットなどに負うところが大きくなっています。誰しも、大事な局面で入力ミスをして、自己嫌悪に陥る可能性は十分あり得ます。そういう意味では身近なテーマの特集とも言えそうです。

 (誤植をしたという)罪の意識は誰よりも本人が持っている。そうしたときに周りがどんな反応をするかによって、その体験が全然変わってくると思うんです。そういう意味では、チケット販売の電話番号を誤植してしまった「9555と9955」を読んでいただけたらなあと思います。一人のミスをみんなでカバーする、それも明るくカバーする様子がじんわりします。

――皆で事態を収束させるんですね。

 ですので、もちろんミスしないように校正校閲するというのはいちばんですが、ミスが起きてしまったときに「笑って許せる」社会になるといいなあと願っています。

   ◇   ◇

 最後に、杉江さんがお薦めしてくれた本特集の「9555と9955」の原稿を半分だけ掲載します。表紙に踊る「電話番号ひと文字違いでナントカ万円」の文言も不穏なこの原稿、読めば分かりますが大変な危機的状況で終っています。続きが気になる人はぜひ、本誌で結末を確かめてみてくださいね!

◆「本の雑誌/2021年7月 冷やし飴ぐびり号 No.457」(本の雑誌社)6月8日発売 定価:734円

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