「ジョー・ディマジオを見た」米国で野球を題材とした回想法広がる 認知症・アルツハイマー患者に心理療法

谷口 輝世子 谷口 輝世子

 米国では野球の思い出や経験を語り合うことで認知症・アルツハイマーの人々に楽しい時間を過ごしてもらう会が開かれている。懐かしい思い出を誰かに話すことで、精神的な安定をもたらしたり、生活の質を上げる効果があるといわれている回想法という心理療法があり、これに野球を組み合わせたのだ。

 熱心な野球ファンでコネチカット大の教授だった日系人マイケル・エゴさんも、この活動の立ち上げに尽力した一人だ。スコットランドでスポーツを題材にした回想法があるのを知ったからだという。

 野球の歴史や記録に詳しい人たちの集まりであるアメリカ野球学会(SABR)がエゴ教授に賛同。アメリカ野球学会のグループが、各地域のアルツハイマー支援団体と協力して、認知症・アルツハイマーや孤独に悩む高齢者に野球の思い出や経験を語ってもらう会を開くようになった。

 5月中旬、ロサンゼルス地区の会に筆者も参加させてもらった。(現在は新型コロナウイルスのためオンラインで開催されている)。

 高齢の男性と介護者ら約10組が出席していて、ホワイトソックスやパイレーツのユニホームを着たり、ドジャースの帽子をかぶったりして、みなさんの事前の準備もばっちり。

 アメリカ野球学会のメンバーが司会者になり「どのポジションをプレーするのが一番好きでしたか、どのポジションをプレーしていましたか」と語りかけたところ、介護者のオンライン操作で、参加者のみなさんが「二塁」や「ピッチャー」などと返答。1960年のパイレーツーヤンキースのワールドシリーズの話で盛り上がる一幕もあった。最近の記憶はあいまいでも、昔の思い出は蘇り、スポーツをやったり、見たりした体験は、その人に刻まれて残っているように見えた。

 参加者のみなさんが笑顔を浮かべていたのが画面越しからもよくわかった。全員が饒舌というわけではなく、ホワイトソックスのユニホームを着た高齢男性は、それほど話をしていなかったが、他の人の話を聞いて、楽しそうに笑っていたのが印象的だった。

 マイケル・エゴ教授は残念ながら、2019年に亡くなり、現在は妹のキミ・エゴさんが遺志を継いで活動の輪に加わっている。キミさんによると、ジョー・ディマジオを実際に見ている人もいて、そういった話で盛り上がることもあるそうだ。

 キミさんは日本でも野球を題材にした回想法が広がることを願っている。

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