「人権問題で制裁」に反発…中国で広がる「H&M」などへの不買運動 日本も対中リスク直視を

治安 太郎 治安 太郎

 米国や英国、カナダなどの欧米諸国は3月下旬、中国政府が新疆ウイグル自治区で、イスラム教徒の少数民族ウイグル族に深刻な人権侵害を与えているとして経済制裁を発動した。これを受け、中国のネットやソーシャルメディア上では、スウェーデンの衣料品ブランド「H&M」が新疆ウイグル産の綿の調達を止めるとしたメッセージが拡散され、新疆綿の調達停止を表明していた欧米企業に対し、中国国内で不買運動が拡大している。ネット上では、H&Mを買うな、欧米企業を追い出せなど過激な書き込みもみられ、中国の有名人たちも対象となる欧米企業との契約を相次いで解除しているという。

 これについて、新疆ウイグル自治区政府の報道官は、「H&Mなどの外資系企業は経済活動を政治的に利用するべきではない、政治利用すれば利益を上げることはできないだろう」と不満を示し、「本当に人権侵害が行われていると思うなら外資系企業の関係者は現地を訪れるべきで、欧米による制裁は中国を不安定化させるための政治的パフォーマンスだ」と人権侵害を改めて否定した。

 バイデン政権になり、米国を中心とする欧米と中国との対立はトランプ前政権下以上に加熱している。加熱すればするほど、日本にとっては難しい選択肢となろう。ウイグル問題を巡って、欧米諸国は中国への批判と制裁を加速化させているが、現在のところ日本政府は慎重な姿勢を崩しておらず、中国を明確に非難していない。日本経済の対中依存を考えると、現在の菅政権にとっては最大の外交的悩みであろう。だが、日本は政治・安全保障的に脱米国は絶対にできないことから、今後日中関係の間でさまざまな難題が生じてくる可能性がある。

 下記にも日本は不買運動に遭ったことがある。当時の小泉首相が2005年4月に靖国神社を参拝したことがきっかけで、中国各地では反日デモに付随する形で日本製品ボイコットの動きが顕著になった。2012年9月の尖閣諸島国有化宣言によって、中国では反日デモが各都市に一気に広がり、日系企業の店舗が破壊されたり販売品が略奪されたりする被害を被った。また、近年では2019年7月、日本政府が実施した半導体材料の対韓輸出規制を受け、韓国で日本製品ボイコットの動きが加速化した。食料品店では日本製品が販売されず、日本行きの旅行はキャンセルが相次ぎ、日本製品に関する情報を掲載しているウェブサイトにはアクセスが集中し、サーバーがダウンするなどした。

 歴史問題などで日本と対立する中国や韓国では、上記のように過去にも日本製品の不買運動やボイコットがあった。しかし、今後の国際政治リスクを考えれば日本はチャイナリスクというものをもっと真剣に考える必要があるだろう。中国側も日本が米中対立の中で難しい立ち位置にいることは分かっており、習政権はその中で“柔”と“剛”の両輪で日本に対応してくるだろう。場合によっては2010年のレアアースの対日輸出制限のように、今後日本へ経済的な揺さぶりを掛けてくる可能性は十分にある。

 筆者周辺では、対中依存をできるだけ減らしてその分ベトナムやインドネシアなどASEANシフトを模索する動きが増えてきている。当然ながら、各企業によって諸事情は異なることから、日中間における完全なデカップリングは難しい。しかし、今後の国際政治の行方を予想し、被害を最小化できるリスクヘッジは日系企業にとって重要な選択肢だろう。

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