「天国との架け橋」という名前をもらった片目の猫 短い生涯でも、とびっきりの愛情と優しさをくれた

渡辺 陽 渡辺 陽

てんてんくん(2歳でFIPのため亡くなる・オス)は、1歳5カ月の時に保護活動をしているむーちょ先生が岡山の動物愛護センターから引き取った。片目で猫エイズにも感染していたが、てんてんくんの里親になった神前さんは、まったく問題ないと思った。

猫とのつながりを絶やさぬために

てんてんちゃんは、岡山の動物愛護センターから引き取られた。岡山県で猫の保護活動をしていて、乳飲み子を中心に世話をしている「むーちょ先生」こと吉田貴子さんが子猫の時に保護した。

神奈川県に住む神前さんは、神前さんの姉が「だんだんちゃん」(熊本震災の被災猫)と「もみじちゃん」(多頭崩壊からのレスキュー)をむーちょ先生から譲渡してもらったため、里親募集をしている猫の情報を見たり、個人的に物資支援をしたりしていた。

神前さんは、神前さんの腕の中で亡くなった「もこちゃん」というサバトラ猫を火葬し、見送った直後だった。「もこが亡くなり、我が家には『じじ』、『きき』という2匹の高齢猫がいましたが、このまま代々続いてきた猫とのつながりが切れてしまうのを恐ろしく感じたんです」と、てんてんちゃんを飼う決意をしたという。

片目で猫エイズだけど、この子がいい

てんてんくんはむーちょ先生のところで1歳を超えたが、他の猫は引き取られていったのに、片目で猫エイズだったので、里親希望者が現れず、残っていた。

「この子を我が家に迎えようと思いました。特に片目であることに抵抗や不安はありませんでした」

神前さんの姉が広島から岡山までてんてんくんを引き取りに行き、しばらく広島で過ごした後に神前さんが迎えに行った。広島から飛行機で神奈川の自宅に移動したが、飛行機と車という移動方法にもかかわらず、迎えの車の中ではずっとゴロゴロスリスリをした。神前さんは性格の良さにうれし涙が出たという。

到着後、初日から一緒に寝てくれるほど人間が好きな子で、とにかく遊ぶのが大好き。決して人間相手に爪を出さないので、神前さんは本当にやさしい子だと思った。

岡山から広島、神奈川へと来てくれたので「点と点をつなぐ」、先輩の『もこ』の死をきっかけにお迎えしたので天国との架け橋という2つの意味で、「てんむす」という名前を付け、呼んでいるうちにすぐに「てんてん」と呼ぶようになったという。

先住猫のじじちゃん(オス)とは、初日こそ遠目で見つめあっていたものの、翌日には一緒に並び、あっという間に年の差を感じさせないほど仲良くなった。

先住猫のききちゃんは「ふーん」という感じで、マイペースに自分の生活を崩さずに過ごしていた。

捨てられない毛布

てんてんちゃんは、片目でも、猫が暮らす上で何ら問題もないと教えてくれた。

とにかく高い身体能力で、大型のネコ科のような筋肉、人の顔の高さまで飛び上がり、どこまで飛ぶのか!と記録を図っていたほどだった。本当にやさしい子で、いつも高齢のじじちゃんに優しく接して、体調を何度も崩すたびにケアをしてくれた。あまりに活発で、シニア2匹との同居ではエネルギーを持て余してしまうため、後に妹分としてもんじろうちゃんを迎えたが、てんてんくんとじじちゃんはべったり仲良しだった。

だが昨年、体調が悪そうだったので病院へ。猫風邪と診断されたが改善せず、別の病院にかかった結果、FIPと診断された。そしてそれから4日ほどで、やせることもなく神前さんの膝の上で息を引き取った。コロナの影響で、家で看病して看取ることができたことが救いだったという。

「何かをかじるのが大好きで、あらゆる毛布に穴を開けていました。今でも家じゅうの毛布やブランケットは穴だらけですが、てんてんがいた証なので捨てられません」

てんてんくんのお陰で、今もじじちゃんは元気にしている。

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