「ああ、亡くなったんか」お悔み情報が家の端末から流れる町 スマホ置き換えで消えゆく「音声告知放送」

京都新聞社 京都新聞社

 京都府京丹波町は、町の暮らしに関わる情報を10年以上にわたって届けていた防災無線の役割を担う音声告知放送を、7月末で終了する。情報化が加速する時代の流れに合わせ、新たにスマートフォンのアプリなどを活用し、受信環境の改善を図る狙いだ。一方、長年親しんできた放送の終了に、町民からは名残惜しさをにじませる声も上がっている。

 ピアノを基調とした穏やかな音楽が、同町下山の田渕敬治さん(68)宅の居間に流れた。お悔やみ情報の放送が始まる合図だ。田渕さんは飲み物を注ぐ手をふと止めて、告知端末機から流れる音声に耳を澄ませた。放送では、町内在住の高齢男性の訃報が知らされた。「ああ、亡くなったんか。昔よう職場に来とった人や」とつぶやいた。

 音声告知放送は、災害や避難情報、お悔やみ情報などの暮らしに関わる情報を、同町ケーブルテレビ(CATV)の加入世帯向けに流している。特に、お悔やみ情報を得る手段として町民から重宝されており、音声が流れると耳を澄ますのは、人口が少なく、顔の分かるつながりが残る同町ならではの日常の風景だ。

 合併前の旧3町でいち早く有線テレビ放送を取り入れた旧瑞穂町で2004年4月にスタート。合併後の11年、CATV網の町全域への拡張に合わせ、旧丹波町と旧和知町域でも導入された。3月末時点で利用休止中を含む6561戸がCATVに加入しており、ほとんどが告知端末機を設置している。

 町は、来年3月末までに行うCATVの民間移管に伴い、サービス内容が一部見直されることもあり、7月末で放送を終了する。告知端末機での加入者間のIP電話や、FMラジオ、インターネットなどは引き続き利用可能で、今後、町が段階的に回収する。

 町情報センターによると、端末機本体は1台あたり約3万円。町からの貸与品として加入者宅に設置されており「端末機の廃止は町の財政負担の軽減にもつながる」としている。

 一方で、町は4月1日から、独自の「京丹波あんしんアプリ」での情報配信を開始しており、音声告知放送が担っていた防災やお悔やみ情報の発信を引き継いでいる。町民には放送終了までにアプリをスマホなどにダウンロードして、居住地域の設定や受け取る情報を選択するよう促すなど、スムーズな移行を目指す。

 町民はどう受け止めているのか。18年7月の西日本豪雨で複数の住宅が浸水被害を受けた同町上乙見区の元区長竹内浩さん(66)は、3年前の水害を教訓に「命に関わる情報がすぐ手に入るのは重要」とアプリの導入を前向きにとらえる。

 アプリなら、町民以外でもダウンロードすれば、情報が手に入る。町外に住む子や孫がアプリを入れて連絡を取ることで「1人暮らしの高齢者など、本人が気付かない場合でも状況を伝えられるようになるのでは」と期待する。一方で「毎朝流れていたラジオ体操が聞けなくなると思うとさみしいなあ」。

 行政からの独自アプリによる情報配信は、丹波2市1町でも先駆的な取り組みだ。高齢者が多い同町だからこそ、取り残される町民がないよう丁寧な説明が求められる。

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