恋愛モノを演じる難しさも痛感した。「普段の芝居ではカッコつけないことを意識しています。それは変にカッコつけると不自然に見えるから。しかし恋愛モノの場合は、実際の恋愛がそうであるように、男としてカッコつける必要がある。はたから見たら恥ずかしく映ることも、恋する二人の世界ではみじんも恥ずかしいとは映らない。それに慣れていない僕としては、芝居といえども本当に恥ずかしかった。カットがかかるごとに脱力。照れを捨てることに苦労しました」と苦笑いだ。
その苦労を軽減してくれたのは、現場を引っ張る佐々部清監督だった。いつ何時も、打てば響くような職人気質の映画人だった。「クランクイン前に監督と二人でお酒を飲んだ際に『不安に思ったらすぐに言え。俺は考える時間なしに即答できる』と背中を押してくれました。佐々部監督は常に『映画は準備!』と仰っていました。撮影中にトラブルがあったとしても、事前準備をしていれば臨機応変に対応ができる。見えないところでいかに準備をするか。その考え方は自分にもあったものなので、居心地よくご一緒することができました」と振り返る。
撮影後の昨年3月に佐々部監督は急逝。62歳という若さだった。「お酒が大好きな人で、撮影後にも『貴大、飲みに行くぞ!』と連絡をくれるような優しい方でした。映画作りをしている人って、僕は職人であるべきだと思っています。佐々部監督は映画が心底好きで作っている職人でした。そんな職人監督とご一緒できたことは誇りです」と佐々部監督作最後の公開を心待ちにしている。