「ボク、また置いていかれるの?」置き去りにされた猫と、愛猫を亡くした女性 お互いの傷を癒やしてくれた

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

ペットの置き去りは、悲しいことに少なくありません。「引っ越し先はペット不可だから」「金銭的に厳しいから」と理由は様々ですが、置いていかれるペットの悲しみは同じです。

大阪府に住むきんえもん君も、家族に置き去りにされた猫の1匹。一緒に暮らしていた他の9匹の猫たちと保護されました。家の状況から、恐らく夜逃げだろうと言われています。

きんえもん君は、仲良しのもものすけ君と一緒に大阪市淀川区十三本町にある保護猫カフェ「ねこの木」で新しいお家を探すことになりました。仲の良い2匹ですから、できれば2匹一緒にと募集がかけられました。

でも、先に新しい家が決まったのは、人懐っこく積極的な性格のもものすけ君。2匹一緒に飼育は困難とのことで、きんえもん君が1匹残されることに…。

きんえもん君は遂に、人間の家族だけでなく仲良しの猫にも置いていかれることになったのです。

もものすけ君の家が決まった瞬間、ねこの木で一緒に祝福をしたのが、きんえもん君の今の飼い主のAさんです。その時、Aさんはきんえもん君のことを「かわいい」としか思っていなかったのだそう。他の飼い主さんのように運命を感じることも、胸の高鳴りを覚えることもなかったようです。

そんなAさんが夢を見ました。それは、自分の家の中できんえもん君を抱っこする夢です。

目が覚めてからAさんは、動揺します。「あの子と一緒に暮らすの?」と。

Aさんは、この年の7月に9歳の愛猫ジェリー君と永遠の別れをしたばかり。別れの哀しみが癒えていない上に猫のいない生活に慣れ始めている中、新たに猫を迎える気はありませんでした。

それに引っ越しが控えています。ジェリー君の思い出がいっぱいの今の部屋は、一人では広すぎる。もし迎えるなら、新しい部屋に引っ越してからとも思いました。

他にも迷う原因があります。それはお迎えしても、すぐ死んでしまうのでないかという恐怖。以前、ジェリー君の弟分にと、生後半年の子猫を迎える予定でした。それが直前になって他界。

様々なことが頭を駆け巡り、きんえもん君を迎える決断は、なかなか下せませんでした。

それでも、ジェリー君に置いていかれた自分と、置き去りにされたきんえもん君が重なります。あの子も自分もひとりぼっち……。散々悩んだ末、引っ越し前にきんえもん君をお迎えすることにしました。今年の1月のことです。

お迎えしてからも、戸惑い続きでした。特に夜鳴きがひどく、眠れないほど。でも、そんな時思い出すのだそう。「ジェリーもうちに来たころはそうだったかも」と。

そう気づいてから、Aさんはきんえもん君とジェリー君の違いを見つけては喜べるようになりました。中でもきんえもん君の尻尾での感情表現に感動したのだそう。ジェリー君は短い尻尾だったので、尻尾での感情表現が分かりにくかったんですって。長い尻尾だとこういう表現だったのかもしれない―と、今までになく幸せな気持ちでジェリー君を思い出せるように。

Aさんの気持ちは落ち着いたものの、きんえもん君はそうもいきません。お迎え直後はAさんがリモートワークで1日中一緒なのに、あまり顔を見せてくれないのです。ご飯を食べると、すぐ隠れていました。

それを寂しく思っていましたが、3月になり転機が。それはAさんの出社です。帰宅すると、きんえもん君がお出迎えしてくれるようになったのです。今ではAさんにベッタリ!会えない時間が、Aさんの存在を大きなものにしていたのでしょう。

Aさんも同じです。猫のいない時間が、猫と暮らす喜びや楽しみを大きくしてくれました。

今はAさん、こう思うのだそう。

「ジェリーが病気になってから、私はたくさん勉強をしました。この学びはジェリーの遺産です。遺産があるからこそ、きんえもんの変化にも気づいてあげられます。猫の寿命が短いのは、次の猫のために席を空けてくれているのかも知れません。遺産が使えるように」

今のAさんの望みは、起きた時にきんえもん君が目の前にいてくれること。元気な姿を見て、一日を始めたいんですって。

お出迎えをしてくれるきんえもん君を見ると、その望みが叶えられる日は、遠くはなさそうです。

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