大阪でカキが獲れる??実は隠れた「名産地」…“汚れた海”のイメージ払しょく目指し、カキ小屋常設へ

杉田 康人 杉田 康人

大阪府阪南市の西鳥取漁港で養殖された「波有手(ぼうで)の牡蠣(カキ)」のカキ小屋を建設するクラウドファンディングが、開始6日間で目標金額の100万円を達成。2月26日までの期間中で、総支援額が280万円を超えた。

西鳥取漁港は、大阪府下で初めてカキの養殖に成功。毎年3~4トンの水揚げがあり、2017年からシーズンの土日に、地元の漁協が仮設のテントを組んで販売している。大阪湾で獲れたとは思えないぷりっぷりの大粒カキが、その場で焼きガキやカキフライ、カキめしなどで楽しめるとあって例年、大盛況となっている。

2021年のシーズンはコロナ禍で、加熱用生ガキのテイクアウト販売のみとなったが2月初旬で全水揚げ分が完売した。仮設ではない常設のカキ小屋を建設し、全国に自慢の「波有手の牡蠣」を知ってもらいたいとスタートしたクラウドファンディングが大成功。漁師が20人程度しかいない小さな漁港は、大きな盛り上がりを見せている。

クラウドファンディング責任者で、NPO法人大阪湾沿岸域環境創造研究センター専務理事の岩井克巳さん(55=日本ミクニヤ専務取締役)は、カキ小屋建設のための整地に早くも着手するとして「ここに来れば何かがあるという、常に人がいる空間にしたい」と意気込む。冬場のカキ小屋だけでなく、オフシーズンは子どもたちの環境教育や食育などの拠点にする。

西鳥取漁港がある波有手の海は、浅い海で育つ海草・アマモの群生地。アマモは窒素やリンなどを吸収して海を浄化するほか、光合成で海に酸素を溶け込ます役割を持つ。魚の隠れ場所や産卵場所にもなるほか、プランクトンが成長し絶好のエサ場になる。

日本の水産業は、漁師の高齢化や漁獲量の低下、国内の魚消費量が減少するなどの多くの問題を抱えている。波有手の海でも例外ではなく、岩井さんは地元の漁協から「今のままでは…。何かやっていきたい」と相談を受け、カキの養殖を提案した。偶然にも西鳥取漁港はプランクトンを食べて育つカキにとって環境が良く、波当たりを防ぐ防波堤があったり潮通しがいいなど養殖にピッタリの条件がそろっていた。

岩井さんが取り組むカキ小屋の建設は、大阪府立大学の大塚耕司教授(57)が代表を務める「漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生」プロジェクトが契機になった。大阪湾で獲れる魚を軸に「ヒト・モノ・カネ」が好循環する地域モデル創出を目指すプロジェクト。西鳥取漁港がある阪南市が、モデル地区となった。

大塚教授は、西鳥取漁港で養殖されるカキはもちろん「サワラは刺身にしてもあぶっても、めちゃくちゃおいしいですね。アコウ(キジハタ)、チヌ(クロダイ)、アカシタ(イヌノシタ)、ガザミ(ワタリガニの一種)…」と、脂がのっておいしい大阪湾の〝推し魚〟を次々と教えてくれた。マイワシなど東京で高値で取り引きされる魚もあるといい、地元での知名度の低さを残念がる。

大阪湾は、淀川や大和川から流れ込む豊富な栄養分の高さなどから絶好の漁場。大阪を指すナニワは「魚庭(なにわ)」が起源との説もある。大塚教授や岩井さんは、高度成長時代の公害で汚染されたイメージが40~50代にいまだ根強く、埋め立てなどで地元の海に触れることが少なくなったことを地産の〝魚離れ〟の理由に挙げた。

大塚教授らのプロジェクトは、水産業を取り巻く悪循環を地域から好転させようと、大阪湾の魚介類を使ったレシピ開発や、ネットで鮮魚を購入できる「サイバーマルシェ」の事業化を模索。儲かるモデルをつくることを目指している。大塚教授は「いいスパイラルに逆転させないといけない。ロールモデル化して、大阪湾の他の地域にも展開していけるようなものにしたい」と奔走する。

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の一組織、社会技術研究開発センター(RISTEX)の研究開発プロジェクトにも選ばれた。大塚教授は、資金面でのバックアップに加え「プロジェクトもフォローアップしてくれた。研究開発をしている他の先生たちとの密な連携も取れ、今までやってきたプロジェクトと違う感覚やアプローチがあった」と振り返る。

岩井さんは、RISTEXから支援を受けたプロジェクトを通じ研究したことを、社会に落とし込んでいきたいと語る。「そのひとつがカキ小屋。人がもっと来る漁港になれば、やりがいも出る。漁業者の収益も上がるし、若い人が『やってみようか』と思えるようなプラットフォームをつくりたい」と青写真を描く。

漁獲と流通、消費までプロデュースして、地域から水産業を盛り上げていく岩井さんや大塚教授の取り組み。コロナがおさまった次の冬、クラウドファンディングで建てられたカキ小屋に多くの人が訪れる光景が目に浮かぶ。

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