相手を楽しませてナンボの大阪人。一般人もボケとツッコミが当然で、知らん人にもグイグイ近寄っていき仲良くなれたら超ハッピー。この気質は、言葉のイントネーションにも表れている可能性があると専門家は指摘します。
たとえば、「コピペ」という新語。みなさんはどう発音しますか? 大阪に住んでいると、第2音の「ピ」にアクセントを置くのが当たり前だと感じていますが、東京など他の地域だとそうではありません。第3音の「ペ」にアクセントを置いたり、アクセントを全く置かなかったり…。そんなイントネーションの差に、コミュニケーションへの意識の違いがあらわれているといいます。
たくさんあった!色んな「コピペ」
文書や画像から必要な部分をコピーし、別の場所に貼り付ける(ペースト)作業を表現する「コピペ」という言葉。まず喋りプロである東西32人の寄席芸人さんたちに、普段通り「コピペ」と発音していただきました。
大阪は予想通り第2音の「ピ」にアクセントを置く人が7人中6人でした。一方、東京はバラエティー豊か。第3音の「ペ」にアクセントを置く人が最も多く11人(45.8%)、続いてアクセントを置かない平坦な読み方が7人(29.2%)。大阪で最も多い真ん中の「ピ」に置く方は5人(20.8%)にとどまりました。
アンケート掲示板「anke」でも、「コピペ」のアクセントの位置について調査を行いました。全国から寄せられた152件の回答によると、真ん中の「ピ」にアクセントを置く方が最も多い一方で、後半にアクセントを置く読み方、アクセントを置かない平坦な読み方も多い結果となりました。
ちなみに、こちらのアンケートサイト利用者の約3割は20代。あくまで仮説ですが、若い年代はアクセントを置かない人が若干多くなっているのかもしれません。
これらの結果について、古今の「話し方」について詳しい落語作家の小佐田定雄さんに聞きました。
イントネーションはコミュニケーション手段の一つ
――東京の寄席芸人さんたちやアンケートから、大阪人では思いもよらないほど「コピペ」のイントネーションがたくさんあると分かりました。こちらについて、小佐田さんはどう感じられますか?
イントネーションは会話相手との息を合わせるために使われると考えられます。大阪なら相手を笑わせてやろう、楽しませようとすることが多いですよね。言葉を面白くさせるためには、抑揚をつける。そうすれば、ただの言葉に動きが出来、面白く感じられるようになりますから。
――平坦な「コピペ」も案外多い印象です。
アクセントをどこにも置かないと、何となくクールに感じられるでしょう?…「コピペ」だけでなく、「ドラマ」や「ギター」といった横文字も最近は平坦な読み方をしています。
グイグイいくか、揉め事を避けるかの違い
――大阪は「ピ」にアクセントを置く人が多いようです
現在の「大阪弁」のベースになっている河内弁のアクセントで、これはお笑いの影響が大きいでしょう。松竹新喜劇や亡くなられた三代目桂春団治師匠が使われていた昔の大阪弁「船場言葉」だと「ペ」に置くはずです。
――これも今昔のコミュニケーションが変容している影響でしょうか?
昔の上方の言葉が色濃く残る狂言では、必ず第2音にアクセントを置きます。この方法だと声が明瞭に聞こえるといわれています。
――そう考えると、「ペ」にアクセントを置くということは、明確に音を聞かせることで積極的にコミュニケーションを取りたいという意思表示とも取れますね。
相手を楽しませようという気持ちの現れでしょう。一方で、昔の大阪弁と呼ばれた船場言葉は、商人の街で使われる言葉でしたから、とにかく揉め事を起こさないことが大事。それがアクセントにも現れているとも考えられます。
東京だって後半にアクセントを置くはずです。あの街は良い意味でほっといてくれる街ですから、(大阪のように)グイグイ押していくような発音にはなりません。
――新語でも読み方が違うのは、コミュニケーションに対する意識の差があるのかも知れませんね。
私ら大阪人はグイグイいきたいですから、これからも「コピペ」は「ピ」に、「ゴリラ」は「リ」にアクセントです。
「コピペ」でコミュニケーションを見つめ直す
新語であったとしても、多種多様な読み方がある「コピペ」。これはコミュニケーションに対する考えの差の可能性があるようです。積極的に仲良くなりたい人に「コピペ」と伝える場合は、第2音にアクセントを置くと良いかも知れません。身近な人の「コピペ」にも耳を傾け、コミュニケーションについて考察するのも面白いですね。
あなたは「コピペ」をどう読みますか?
◆小佐田定雄(おさだ・さだお) 落語作家。1952年生まれ。大学卒業後、火災保険会社のサラリーマンをしながら落語会通いをし、1977年に桂枝雀に宛てて新作落語「幽霊の辻」を郵送したことで認められ、落語作家デビュー。1987年から本格的に落語作家に転進した。上方の新作や滅びた古典落語などの復活、改作や江戸落語の上方化などを手掛ける。現在は狂言などの研究や大学での講師としても活躍している。