東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長発言が大きな問題になりました。一連の流れを見ていて痛感するのは、発言を批判し、会長を交代させることだけでは、なんら問題の本質的解決にはなっていない、ということです。
そこで、我が国に、いまだ深く広く根付いている「ジェンダーギャップ問題」について、その実相と本質、そこに存在する深い溝やバイアス、そして、その解決の方途について、行政・政治・国際社会等でのリアルな経験も踏まえ、数回に分けて、考えてみたいと思います。今回は「そもそも、ジェンダーギャップとは?」について、考えてみます。
目次
#1 そもそも、ジェンダーギャップとは?
#2 ジェンダーの考え方は、時代によって変わってくる
#3 男性に対するジェンダーバイアスもある
#4 日本の『女性活躍推進』が、うまくいかないのはなぜか?
#5 どの性の人も、どの世代の人も、どんな環境でも、生きていきやすい社会を~時代は変わってきている。希望は大いにある
※なお、LGBTやSOGI(性的指向・性自認)の論点は、極めて重要ですが、今回は取り上げておりません。また、人種差別や少数民族の迫害、ミャンマーや中国、香港等の民主化弾圧、イスラムや途上国における女性差別等々、自由や人権を巡る、深刻で苛烈な問題はたくさんありますが、それらについても、今回は論じる対象としておりません。
ジェンダーギャップとは?
「ジェンダー」は、生物学的な性差に対して、社会・文化的性差のことをいいます。各国における男女格差を測る指標として、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」がよく用いられます。2020版によると、日本は153か国中121位、男女格差が大きい国と位置付けられています。これを個別分野で見ると、経済:115位、教育:91位、保健:40位、政治:144位となっています。
具体的には、GGIは以下のような指標で、各分野の男女格差を測っています。
①経済参画と機会:労働参加率、類似職業や全体での賃金格差、管理職、総合職・専門職の男女比率
②教育的達成:識字率、初等・中等・高等教育進学率
③健康と生存:出生時の男女比率、健康寿命
④政治への参画と能力開花:閣僚や国会議員の男女比率、国家元首・首脳を女性が務めた年数(直近50年)
日本の順位が低いのは、経済では、全体での賃金格差、管理職・総合職・専門職に占める女性の比率、教育では、高等教育(大学・大学院)への女性の進学率、政治では、すべての指標が、それぞれ低いことに起因します。(ちなみに、健康は、日本は順位としては40位ですが、数値としては2位(1位が39か国いる)なので、ほぼ問題はないといえます。)
我が国で、就業者数に占める女性の割合は44.6%ですが、管理職等に占める女性の割合となると、ガクッと下がります。例えば、民間企業(100人以上)役員:6.9%、同管理職:11.4%、国家公務員の本省課室長相当職:5.3%、都道府県における本庁課長相当職11.3%、大学教授:17.2%、研究者:16.6%、医師:21.9%、歯科医師:23.8%、衆議院議員:9.9%、参議院議員:22.9%、都道府県知事:4.3%、裁判官:22.2%、弁護士:18.9%、日本新聞協会の記者21.5%、等となっています。(内閣府男女共同参画局(2020年))
数値で見てみると、このような状況ですが、次回は、読者の皆さんの周囲にもあふれる、実社会のリアルな問題として具体的に考えてみたいと思います。
(参考)
・Mind the 100 Year Gap (World Economic Forum 2019.12.16)
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf
https://www.weforum.org/reports/gender-gap-2020-report-100-years-pay-equality
・Human Development Reports (United Nations Development Programme)
http://hdr.undp.org/en/data
・ポジティブ・アクション(内閣府男女共同参画局)
https://www.gender.go.jp/policy/positive_act/index.html
・政策・方針決定過程への女性の参画状況(内閣府男女共同参画局)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/pdf/r02_genjo.pdf
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/sankakujokyo/pdf/191225.pdf