「医療現場は地獄の戦場だった!」の著者が、ワクチン接種が始まった日本人へ緊急提言

山本 智行 山本 智行

アメリカ人の死者数は第2次世界大戦超え

――ワクチンの効果はボストンの街にも見られますか?

「効果と言うには早いでしょうが、ツイッターを見てもそうですし、実際に数字は減っている。ボストンのあるマサチューセッツ州のコロナ患者は昨日(2月17日)で1200人、死者50人。7日間平均で患者は1900人です。しかし、アメリカ全体だと一時に比べ減ったとはいえ、患者6万4000人、死者1700人という状況。トータルの死者は第2次世界大戦のそれを上回っています。場所によって爆発の時期がずれており、私の友人が勤務する西海岸のUCLAの病院は地獄だと言っていました。

 ボストンはピークが収まり、いまはICUも落ち着いています。スーパーは開いていますが、レストランや美術館、スポーツ施設、学校も閉まっている状態。息子と剣道の道場に通っていましたが、いまはリモート剣道。日常とはほど遠い状況です」

気になるワクチン副反応の実態は

――ワクチン接種といえば、やはり副反応が気になります。日本でも連日のように関連報道があります。アレルギー症状のアナフィラキシーは米疾病病対策センター(CDC)の報告によると20万回に1回の割合とか。

「手元にあるデータで2回接種して症状が出ている人が3%。痛み、倦怠感、筋肉痛、寒け、熱などです。しかし、死亡した人は1人もいない。アメリカ社会でも打ちたくない人の割合は黒人が多いけれど、打つことで死なないし、亡くなる危険性が減り、大切な家族や知人に移すことがなくなるなら接種するに越したことはないと思います。

 実際、新薬なので心配する人の気持ちも分かります。医者の立場としても新薬はすぐにすすめないし、認証されてから10年ぐらいたって使用したいものですが、今回はコロナですから受けないわけにはいかないと思います」

――デリケートな質問になりますが、オリンピック開催の有無についてはどう考えるか?

「たくさんの人が集まれば、感染リスクは高まる。欧米と日本人の感染者数の大きな違いをみて、ルールを守り、相手のことを思う日本人の国民性の表れと感じる部分は多いです。マスク、咳エチケット、うがい、大きな声でしゃべらない。コロナテストが少ないから患者が少ないと言われますが、死者の少なさが欧米との違いを表していると思います。

 ただ、オリンピックを開催したとなるとどうでしょうか。日本だけの問題ではないですからね。感染爆発も起こりうる。そうなったとき、医療体制はどうするのか。国内だけではキャパシティーは少ない。しかし、開催してコロナの感染を抑えるようなことになれば、すごいことだと思います」

地獄のような医療現場を見て日本人に伝えたいこと

――「医療現場は地獄の戦場だった!」を読み、大変な仕事をされていると頭が下がる思いでした。それと臨終患者とその家族とのシーンが印象に残った。

「別れの場面に何度も立ち会い、人間としてこんな理不尽で切なくて、やりきれないことがあっていいのかと思う。コロナは本当に怖い。だれだって、そんな状況になりうるわけですから」

――接種するのはやはり高齢者からがいいのか?一部では若者から打った方が効果が早いという意見もある。

「やはり、死の危険性が高い人から打った方がいい。アメリカでも高齢者、その次に基礎疾患のある人の順になっている。若い人は罹患しても死に至る人は少ない」

――あらためて、日本人にメッセージを。

「新しい薬ですが、ワクチンを打つのは自分のためだけではありません。そんな大きな問題ととらえず、接種してもらいたいです」

◆大内 啓(おおうち・けい)ハーバード・メディカル・スクール助教授。ブリガム・アンド・ウィメンズ病院救急部指導医としてコロナ禍のER医療の最前線に立っている。1978年、大阪市生まれ。12歳で渡米し、2009年ジョージタウン大学医学部卒業。ニューヨーク・マンハッタン郊外のLong Island Jewish Medical Centerで救急医学科/内科の二重専門医認定レジデンシー(全米で年23人限定)を14年に終了。終末医療、医療格差や効率性に関心を持つ一方で米国の”医療あるある”の漫画化を構想中。趣味はランニング。

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