新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言は音楽や演劇など表現者の活動に大きな影響を及ぼしている。舞台公演などを「不要不急」と捉える見方も「世間」では多い。そんな厳しい状況の中、昨年12月末に初のソロアルバム「1,2,3&4」をリリースした津軽三味線奏者・土生(はぶ)みさおが当サイトの取材に対して思いを語った。
5歳から津軽三味線を習ったが、大学卒業後にレコード会社に入社。女性アイドルデュオ「Wink」の担当スタッフとなるも、持病のために療養期間を経てОLへ転職。一度は引退を決意したが、「自分は三味線を弾くべき」と再開。2013年に「津軽三味線日本一決定戦」で女性初となる日本一の称号を獲得した。一方で、演歌の細川たかし、杜このみのバックでの演奏、ももいろクローバーZの日産スタジアム大会参戦など振り幅の広い活動を続ける。
アルバムはタイトルの通り、ソロ、デュオ、トリオ、カルテットでのセッションを表現。 92歳の民謡歌手・柳田冨士子が14曲中、5曲で哀愁を帯びた歌唱を披露し、土生は伴奏奏者としての技と力量を発揮した。
コロナ禍でのアルバム制作について、土生は「仕事がない今だからこそ、作る時間があるかもしれない、と思うところから始まったが、先の見えない日々が続き、もしかしたら、津軽三味線奏者を生業としての制作は最初で最後になるかもしれない、と思った。しかし、実際に制作を終えてみて、貯金の底がつくまで、三味線奏者として頑張り続けようと、思いが明確になった」と明かす。
女性の表現者として大先輩となる柳田の存在も刺激になった。「人生の厚みが唄に表れていて、何をしても太刀打ち出来ない、自分も歳を重ねていく中で人間的厚みを増していきたいと思った。『津軽じょんから節(中節)』は冨士子さんの心からの喜びがあふれていた」と敬意を表する。
最初の緊急事態宣言が発令された昨春以来、活動は制約を受けた。「前年比1割しか収入のない月が数か月あった。主な収入源が公演活動のため、現状、前年比3割程度の収入が続いている。現時点で公演が決定しているものは2本のみ。昨年の延期のものが、決まるのか流れるのか、わからないものが数本ある。仕込みの期間と割り切って、今だからこそやれることをするしかない。しかし、例えば、ここからさらに1年は活動自粛が続くとなると、まずい…。ライブ配信を探っています」
そんな思いを抱きつつ、一念発起してアルバムをリリース。これからという時に再び緊急事態宣言が発令された。土生は当サイトに切実な思いを寄せた。
「民謡などにおいて、有料配信のチケットを購入するのは世代的にハードルが高い。それでも今の時世に生きているのだからとツイキャス配信も試みましたが、あまり観客数をいただけませんでした。客席を半分の人数しか入れられないとか、無観客ライブとか、それでは商売にならないし、やっただけ、赤字!一方で、ギャラが安くても、やらないよりはいい。やらないでいたら、自分が再起不能になってしまう。お客さんはというと、飲食店にはライブハウスも含まれ、20時閉店では、換気休憩も考えたら、ライブは17時頃には始まっていなければなりませんが、そんな時間に、仕事終わりの方が来場することは難しい。今後、『なんだ、そのギャラでやってくれるのね』と思われたりしませんように、と願うばかりです」
最後に、原点である津軽三味線の魅力を問うた。「魂の叫びが音となっていること。それは自分自身が丸裸にされてしまうことなので、怖いことでもあるけれど(笑) 。津軽三味線の魅力を多くの方に知ってほしいです」。そう、土生は思いを吐露した。