「人前で踊らなかったら死んでしまう」「パフォーマーに観客は必要です」 医学生がおうちバレエ動画をアップする理由

竹内 章 竹内 章

部屋や体育館でバレエを練習する医学生のアカウントが話題です。こたつや家具に囲まれた一角で、白衣で華麗に回転をきめる動画は100万回以上表示され、「素晴らしいピルエット!bravo!」「ため息が出ちゃいます」などと喝采のリプライがやみません。「ダンサーって人前で踊らなかったら死んでしまう。パフォーマーに観客は必要です」と語る投稿主さんの日常には、コロナ禍が影を落としていました。

投稿したのは、とある医学生のバレエ練習日記(@medical_ballet)さん。バレエ歴17年で現在地方国公立大学の医学科3年です。全国バレエコンクール in Nagoyaの男子シニア部門で優勝したこともあるレベルで、夢は「ダンサーのためのドクター」になること。 

新型コロナウイルスが感染拡大する中、大学の体育館が使えず、レッスンも自粛。そんな状況の中で始めたのが「おうちバレエ」でした。「バレエってあまりメジャーではないんですよね…。特に男子はいろいろあるんです。だから少しでも知ってほしい。バレエはかっこいいんだって」とツイートする投稿主さんに聞きました。 

―体育館で踊る動画について解説をお願いします。

「『ジゼル』という作品です。ミルタというウィリ(精霊)の女王が、アルブレヒト(踊っている人)を力尽きて死ぬまで踊らせている場面です」

―すぐ後ろにバスケットボールを楽しむ学生が…。

「知らない人の前で、白衣を着て踊るのは恥ずかしかったです。周囲はあまり気にしてないみたいです。『(投稿主さんを)邪魔しては悪いから』と友達に言われたことがあります」

―おうちバレエの動画も賞賛されています。

「グランピルエットやアラセゴンターンといわれるものです。回転するコツは、しっかりとポジションに立つことと首をきること(回転中に常に一点を見ていられるように顔の向きを変えること)の2点です。細かいところは人によって違いますし、練習を積んで感覚をつかまないといけないです。とにかく練習あるのみです」

―勉強と同じくらいバレエ最優先の生活ですか。

「僕の場合は体を作るためにしっかりと栄養をとることくらいです。睡眠も十分とるようにしていて、夜11時までに寝ることが多いです。ストレッチや筋トレもして、甘いものやファストフードは控えるようにしています。あんまり厳密ではありませんが」

―「人前で踊らなかったら死んでしまう」(1月11日)の投稿に込めた意味は

「1人で踊るのと人前で踊ることは全く異なります。緊張感も異なるし、自分のコンディションや踊り方も変わってきます。何のために踊るかは人それぞれであって、すべての人が人前で踊らなければとは思わないですが、踊りで何かを表現し伝えようとするダンサーであるならば、それは伝える相手がいるから成り立つことです。観客がいなければまずそれが成り立ちません。相手を意識せずに踊ることに慣れてしまうと、伝えたいものが伝えられない踊りになります。僕の場合だと踊りが雑になってしまいます。人によっては、踊りが固くなったりだとか思うように動けなかったりと、それぞれの形で出てくると思います。ダンサーに限らず、全てのパフォーマーに通じることではないのかなと思っています」

   ◇ ◇

「まいどなニュース」を運営する神戸新聞社は、兵庫県洋舞家協会などとの共催で、洋舞芸術の発展と若手舞踊家の育成を目指す「こうべ全国洋舞コンクール」を開催しており、2021年は5月に予定しています。投稿主さんも過去にエントリー歴がありますが、「悔しい結果に終わってしまった」と振り返ります。

「こうべのコンクールは出場者のレベルが非常に高いのですが、コロナ禍で満足に練習できていません。出れるなら出たいんですけど」

とある医学生のバレエ練習日記さんが、観客を前に舞台で踊る日が一日でも早く来ますように。

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