音楽はときに作り手の意図や想いを超えて、予想外の広がりを見せることがある。歌手で俳優の宇崎竜童(74)の楽曲『生きてるうちが花なんだぜ』もその一つ。昨年末に木梨憲武(58)が俳優の佐藤浩市(60)とのコラボ曲としてカバーし、音楽番組でも披露。「笑ってるかい」「悩んでるかい」「馬鹿やってるかい」「生きてるかい」。ロックスピリッツ溢れるメロディと人間の喜怒哀楽をストレートに表現した人生讃歌ともいえる歌詞は、コロナ禍での重苦しい空気を吹き飛ばす力強さがあった。
てっきり宇崎が暗く悲しいニュースの多かった2020年の応援歌として書き下ろしたものなのかと思いきや、誕生は今から17年も前のこと。名優・原田芳雄さんもかつて愛した“知られざる名曲”だった。
もともとは、森崎東監督の映画『ニワトリはハダシだ』(2004年)のエンディング曲として宇崎が書き下ろしたもの。「僕が初めて森崎監督の映画音楽に抜擢されたのは、1985年公開の『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』。しかし自分としては森崎監督の意図を汲んだものが果たしてできたのだろうか?という葛藤がずっとありました。それから約19年後、再び森崎監督に手招きしていただいたので、当時果たせなかった思いをすべてぶち込んで、頼まれてもいないのに歌入りの曲を作った。それが『生きてるうちが花なんだぜ』でした」と宇崎は明かす。
その楽曲をいたく気に入ったのが、出演者の一人である原田さんだった。「芳雄さんは歌も上手い人ですから、ツアーを頻繁にやっていました。その際に必ず歌ってくれていて、江口洋介君や(佐藤)浩市さんが参加した芳雄さんの追悼ライブでも出演者全員で歌いました。そうしたら浩市さんも気に入って自分のレパートリーに加えて、それが浩市さんと親交の深い(木梨)憲武ちゃんにも伝わった。コロナが広がり始めた昨年3月くらいに『ぜひ僕にも歌わせてください!』と連絡をもらったんです」。名優から異才へと、転がるように楽曲が伝播した。