神奈川県藤沢市の砂浜で、リアルなイルカのサンドアートが度々出現し、訪れる人の目を楽しませている。仲睦まじく泳いだり、“水面”から顔を出したりと、丸みを帯びた体つきで戯れる砂イルカたちの姿は、見ているだけでなんだか幸せな気分に。2021年の正月にも砂浜に舞い降り、新春を寿いだイルカたち。SNSなどでも注目を集めるこれらの作品は、一体どんな人たちが作っているのだろう。「江ノ島イルカ部」(@enoshimadolphin)に取材を申し込んだ。
江ノ島イルカ部とは
江ノ島イルカ部は、砂像制作歴20年という草薙徹さんと、その草薙さんを師匠と慕う有志10人ほどがレギュラーメンバー。草薙さんは広告業を営むかたわら、近隣の海岸で砂質調査をしながら、1人でサンドアート作りに取り組んでいたという。
この活動に共感した人たちが集まり、2016年から「江ノ島イルカ部」が始動。日本有数の海水浴場である藤沢市の片瀬西浜海岸をホームに、天候の良い週末などに活動を続けている。片瀬西浜海岸のほか、葉山町の森戸海岸、鎌倉市の由比ヶ浜海岸、平塚市の平塚海岸、横須賀市の斉田浜、静岡県の下田白浜海岸でも砂イルカを制作。数年前からは、遠く沖縄県宮古島市の伊良部島で活動するようになった仲間もいるそうだ。
どうやって作っているの?
部の制作・広報担当に話を聞いた。
――サンドアートはどのように作っているのでしょう。
「砂イルカは主に2タイプ(全身と顔出し)あります。全身タイプはバナナ型をイメージして砂浜にライン取りし、スコップで砂を盛って作ります。顔出しタイプは円錐型に砂を盛ります。どちらもそこからシルエットをイメージして手でしっかり固めていきます。背ビレ、手ヒレ、尾ビレを加えて最後に目入れをすると完成です」
――イルカ1頭作るのにどれくらいかかりますか? また、砂ならではのポイントなどは?
「所要時間は手直しをしながら3時間前後です。尾ビレを跳ね上げて動きを出したり、表面を滑らかになるよう手で磨いたりと、細部にも工夫を凝らしています。砂であることのポイントとしては、何度でも作り直せるところでしょうか」
“ガチ勢”がいると話題になった正月作品
――2021年のお正月の作品について教えてください。
「正確には大晦日から1月3日まで、同じ場所で距離を置いて3作品(大晦日は『2021』の入った砂イルカ、元日は手のひらに砂イルカを乗せたハンドドルフィン、2日は乾燥している箇所への水分補給や細部メンテナンス、3日は波打ち際の全身タイプ2頭)制作しました」
「新型コロナウイルス感染症対策を考慮し、制作メンバーは初期からのスタメン4名に絞りました。年末年始のこの活動では、コロナ禍で様々なことが制限されている中、道行く人たちが目にして少しでも笑顔になってくれたらという願いを込めて作らせてもらいました」
夕陽に照らされたイルカが海に帰っていく…
――江ノ島イルカ部の皆さんにとって、サンドアートの魅力はどんなところですか?
「ゴミを出さずに誰もが楽しめること、そして完成した砂イルカが夕陽に照らされて美しく佇み、やがて自然と海に帰っていくところでしょうか」
――SNSにも「サンドアートのガチ勢がいる」などと目撃情報がしばしば投稿されていますね。
「作品や制作中の撮影、SNSの投稿につきましてはメンバー全員了解しており、とてもありがたく、励みになってます。草薙師匠は『砂イルカがSNSの波に乗って元気よく泳いでいるみたいで嬉しいね!』と微笑みながら話してます」
――活動のモットーにしていることなどがあれば教えてください。
「江ノ島の海岸でNPO法人『海さくら』が展開しているビーチクリーン活動への参加や、砂イルカ制作前後の清掃を忘れずに。願いは“to be a beautiful sea forever (永遠に美しい海であり続けるように)”です」
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コロナ禍以降は、砂浜でもマスク着用と感染症対策に気を配りながら制作しているという江ノ島イルカ部。「今後も状況を見ながら、しばらくは制作予定はお知らせせず、偶然見つけたら温かく見守っていただきたいと思います。私たちの活動で、ほっこりしてもらえたら嬉しいです」と話している。
・草薙徹さんのInstagram @sanddolphin