公園の片隅で子育てをしていた盲目の母猫・ヘレン 保護された家で穏やかな日々を送る

平藤 清刀 平藤 清刀

冬の寒さが残る公園で、ボロボロになりながら3匹の子猫を産み育てていた盲目の母猫。親子一緒に保護され、子猫は里親のもとで、母猫は保護された家で幸せを見つけた。

出会いは1本の通報から

「猫の親子がいじめられている。小学生が石を投げたり、棒で突いたりしている」

保護猫活動をやっている方山眞奈美さんのもとに、1本の通報が入った。春とはいえまだ風が冷たい、昨年3月のことだった。

通報があった大阪府羽曳野市にある公園へ駆け付けると、まだ若いメス猫が3匹の子猫と一緒にいるのを発見。なんと母猫は盲目で、子猫たちは生後2カ月半くらいと思われた。

方山さんはすぐ動物病院へ連れて行った。母猫の右目は眼球癆(がんきゅうろう)といって、炎症や損傷により眼球が萎縮して機能を失っていた。そして左目は眼球癒着を起こしていた。

獣医師は「子猫のときに感染したヘルペスウイルスが原因だろう」と診断した。この母猫は、生まれてまもなく失明していたということだ。獣医の見立てでは、母猫はまだ1歳にも満たない月齢だという。

出産して2カ月半、この母猫は両目が見えない状態で、どのように子育てをしていたのだろう。雨露をしのぐ場所を確保するだけでも困難を極めたはず。しかも、どうやって食べ物を手に入れていたのか?

おそらくエサをあげている人がいたのだろうと、方山さんは推測する。公園にはそんな形跡が残っていた。親子は、いったん方山さん宅に保護された。母猫はヘレン・ケラーにちなんで「ヘレン」と名付けられた。

ごはんをあげると、ヘレンはどんなに空腹でも子猫に食べさせた。目が見えないけれど気配で察知するのだろうか、子猫が食べ終わってから自分が食べ始める。

ヘレンは我が子の姿を見たのか

右目は完全に失明していたが、左目は手術すれば見えるようになる希望があるという。しかし見えるようになる確率は50%で、費用は60万円もかかる。

「我が子の姿を見せてあげたい」

方山さんはSNSで呼びかけて寄付を募り、手術費用は工面できた。ヘレンは過酷を極める野良生活で弱りきっており、保護されたあとも何度か生死の境をさまよい、手術日はたびたび延期された。それでもなんとか健康を取り戻したヘレンは、やっと手術を受けることができた。

「手術を受けたんですけど、クリアに見えるようにはなりませんでした」

一方、3匹の子猫はどうなったか。

感染症が原因で、残念ながら2匹は亡くなってしまったという。たまたま抵抗力が強かったのだろうか、1匹はすくすく育って、里親に引き取られていった。今ではヘレンよりも大きく育って、元気に過ごしているそうだ。

ヘレンは今、方山さん宅で穏やかな日々を過ごしている。視力は回復せず、光の明暗を感じるているというが、そんな不自由を感じさせないほど家の中を活発に動き回る。筆者がカメラを構えたら、まるで照れたように顔をそむけたので、「本当は見えているんじゃないの?」と思ったほどだ。

見た目も、公園で発見されたときのボロボロな状態から打って変わって、毛並みがいい。そして、小食のわりには体格もいい。「ヘレンは目が見えないけど、高いところが好きなんです」。それは猫としての本能なのだろうか。

方山さんにとってヘレンとの出会いは運命的だったのかもしれない。野良猫の保護活動を行うNPO法人を約1年がかりで準備してきたのだが、方山さんはその法人名を『令和さくら猫マザーヘレン』と名付けた。

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