「あなたの時給300円くらいよ」…それでもいい思い出ばかり 医療現場にも「不易流行」が大切では

谷光 利昭 谷光 利昭

 「あなたの時給300円くらいよ」。私が初期研修で仕事をしていた時の給料です。三井記念病院(東京)で外科レジデントをしていたとき、ほとんど帰宅しないので、妻が興味本位で大雑把に計算すれば、そんな時給になったようです。

 週に5日以上は病院から出られず、たまに帰宅すればポケットベルで呼び出され、洗濯機に入れたままのパンツ30枚がカビを生やしたことも…。また、地下鉄サリンの患者さんを直接診る経験もありました。その病院を辞めてから23年以上。今となってはいい思い出しかありません。しかしながら、その病院で培った精神は現在の私が行う医療に繋がっていると思います。

 受け持ちの患者さんが手術になれば必ず病院に泊まりました。といいますか、仕事が多すぎて帰れないのが実情だった気がします。朝のカンファが終われば、手術室に缶詰め状態でしたので病棟に行くのは、カンファの前。患者さんには申し訳なかったのですが、早朝に起きて頂き、朝の回診を行い、指示を出してからでないと手術室に入れません。時間との闘いでした。

 手術が終われば、夕方の回診をして、患者さんに異常がないことを確認して雑務をこなしていきます。土日、祝日も必ず患者さんのところには顔を出して順調に経過していることを確認します。このような激務をこなして4年続けることができたのは、理想の医師像があり、尊敬できる先輩医師に囲まれていたからだと思います。

 三井記念病院外科を卒業された先生は優秀な人が多く、人格的にも素晴らしかったです。人としての生き方を教えて頂いたことが多々ありました。このような素晴らしい病院も時代の流れとともに今は随分と変わってしまったようです。ブラックがいいというのではなく、いいものは受け継がなければなりません。不易流行です。

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