「不始末のお詫びのしるしに、心ばかりのものですがお納めください」。取引先に迷惑を掛けてしまい謝罪する際、菓子折りは効果があるのか。関西大学社会学部の池内裕美教授(社会心理学)が、「『お詫びの品』の贈呈は苦情対応に有効か 重量感と包装紙の色の違いが否定的感情の抑制に及ぼす影響」と題した研究成果を日本社会心理学会第61回大会(オンライン開催)でWEB発表した。誠意を示し得意先との関係を修復する最善の方法とは。当記事がお役に立ちましたら幸いです。
企業に苦情が寄せられた場合、一般に商品代の返金や交換、修理など様々な対応が考えられ、そのひとつに「お詫びの品の贈呈」 がある。池内教授のこれまでの消費者調査ではお詫びの品を「非常に誠意を感じた」と受け止めることが示唆されている。企業側の面接調査では、謝罪用の自社商品の詰め合わせがある(菓子メーカー)▽3000円程度の品物が妥当で後に残らない物が望ましい▽華美な商品(パッケージ・包装紙)は避ける▽訪問対応の場合はある程度の重量感のある物を渡す―といった具体例を確認している。
検証したのは、(1)お詫びの品の重さ条件(重い/軽い)が苦情対応(誠意の認知、不満の軽減など)に及ぼす影響(2)包装紙の色(地味な白/華美な赤)の関係の2点。社会人140人(平均年齢47歳)を5グループに分けた。品を渡す114人の内訳は、「重・白」29人、「重・赤」29人、「軽・白」29人、「軽・赤」27人。また26人を「品を渡さなさない」設定にした。
企業の講演会場で「主催者の不手際により講演者が30分遅れる」という場面を設定。心理学実験であることを伏せ、まずお詫びの品を受け取る前の残念度、不満度、怒りの程度といった否定的感情について100点を上限として回答してもらった。
回答終了後、重さ(85グラム、195グラム)×包装紙(白、赤)の4条件のお詫びの品(お菓子)を配り、「お詫びの品を渡さない」グループには、「このお品は、お詫びの品のサンプルで、中にはダミーの商品が入っております。後ほど回収させて頂きますが、本サンプルについて自由にご意見を頂けると助かります」と説明した。この5グループから、トラブルが生じた際にお詫びの品を渡すことや品自体について、手に持った状態で受け取った後の否定的感情について回答してもらい、「主催者の誠意」や「お詫びの気持ち」などについても11段階(全く感じない0~非常に感じる10)で尋ねた。
お詫びの品を渡す前後の残念度、不満度、怒りの程度の変化量を、分散分析と呼ばれる手法で解析したところ、すべての項目で品を渡した方が、これらの否定的感情が抑制されていた。また、「重さ」と「包装紙の色」を組み合わせた分析では、明確な効果は見られなかったが、共分散構造分析という分析手法では、重い品を渡されたグループの方が、お詫びの気持ちを強く感じ、否定的感情が抑制されるといった関係性が認められた。つまり重い品は、苦情対応時に効果的に働く可能性が示唆されたといえる。また、実験終了後、講演会場の人たちには実験内容を十分説明し、お詫びの品を渡した。
池内教授は「『重たい品イコール高額』と認知されるという結果も出ており、おとぎ話『舌切り雀』の「大きい方が良い物だ」といったつづらの話に通じるようで興味深い。本実験を 繰り返し検証して精緻化・一般化する必要がある」と話している。
研究成果はこちら(検索窓に「池内」と入力)→http://iap-jp.org/jssp/conf_archive/search.php?y=2020