チワワの金太郎君は脚に障がいを持って生まれました。大きく曲がっていたり、指がなかったり…正常なのは右後ろ脚だけです。それでも優しい家族に迎えられ、先住犬たちと無邪気に戯れる姿からは、今がどれだけ幸せかが伝わってきます。
「アスファルトの上を歩くのは難しいけど、ドッグランとか芝生の上はものすごく速く走るんですよ。写真を撮ろうとするといつもフレームアウトするくらい(笑)。こんな風に歩いたり、走ったりできるようになるとは思っていませんでした」
感慨深げにそう話すのは藤川詩織さん(仮名)。金太郎君を5匹目の犬として迎えた“肝っ玉母さん”です。チワワのさくらちゃん、もみじちゃん、あかねちゃん、マルチーズとペキニーズのミックス犬・桃太郎君――先住犬たちは皆、何らかの事情があって藤川家にやって来ました。そして、金太郎君との出会い…。
「友人から『ブリーダーのところで障がいを持った子が生まれた』と相談を受けたんです。お母さん犬が出産中に仮死状態になって、お腹にいた赤ちゃんは金ちゃん以外、みんな亡くなったと。酸欠が原因で、唯一生き残った金ちゃんも指はほとんど壊死していました。でももう4匹いましたし、責任が持てないと思って一度は断わったんです」(藤川さん)
無理もありません。5匹目に障がいを抱えた子を迎えるのは相当の覚悟が必要です。ただ、友人がブリーダーから引き取りに行く際、同行して金太郎君の姿を見ると心が大きく揺れました。
「まだ目に膜が張っていて、ちゃんと見えていないようでした。生後1か月になるかならないかだったと思います。あまりに弱々しくて、やっぱり自信が持てませんでしたね」(藤川さん)
その日は別の友人が連れて帰ってくれましたが、後日「引き取れない」とお断りが。獣医師に「ちゃんと育つかどうか分からない」と言われるような状態だったそうですから、ためらわれるのは当然です。ではなぜ、藤川さんの家族に?
「それから2週間、最初に相談を受けた友人がお世話してくれたんです。ごはんを食べられるかどうかも分からなかったし、私も急に仕事は休めないので。そうしたら、ちゃんとごはんを食べて元気を取り戻したと。そこでもう一度、『誰にでもは任せられない。もしよかったら引き取ってもらえないか』と頼まれたんです。そのときも悩みましたよ。でも、その友人の家には大きな犬がいて、金ちゃんが幸せかなと考えたら…。で、決心しました。ダメですね、見てしまうと(苦笑)。ブリーダー崩壊や多頭飼育崩壊の現場にレスキューに入った方たちが『1匹でも多く』と連れて帰る気持ちがよく分かります」(藤川さん)
感情に流されて迎えたわけではありません。「うちにはまだ高校生の子供がいるから、あと1年は手術とか手厚いことはしてあげられないかもしれない。それでもいい?」と確認してから引き取りました。その友人は「命が助かることが最優先」と感謝したそうです。
新メンバーのことを先輩犬たちは温かく迎えてくれました。
「障がいがあることが分かるのか、すごく優しく接してあげますね。もみじは金太郎にしつこくされるとガウガウ言うこともありますけど、他の子にされたときみたいに追いかけて行ってまでは怒りません。一番かいがいしくお世話しているのは桃太郎です。自分のオモチャを金太郎の目の前に持って行って遊び方を教えてあげたり。どんどんヤンチャになってきた金太郎が何をしても絶対に怒らないし、ドッグランでよその子が金太郎に触ると、怒って追いかけるんですよ」(藤川さん)
末っ子長男だった桃太郎君は弟ができてうれしいのかもしれません。
ブリーダーのところにはたくさんの犬がいたようですが、残念ながら「家族」と呼べる幸せな環境ではなかったとか。金太郎君にとっては藤川家こそが「家族」。しかも大家族の愛に包まれて、スクスクと成長中です。