この半年ほどですが「仕事辞めたんだよね」というママ友の話を聞くことがあり、そのタイミングにちょっと驚きました。3人共、育休明け復職し、一番大変な最初の1年を無事乗り越えています。ところがそれから数年たち、子育てと仕事の両立も慣れている頃に退職を決めた3人。彼女たちはなぜ退職という決断をし、その後どう思っているのでしょう?
三人三様の「退職の理由と今」
▽Nさん/35歳
大卒から育休明けをはさんでずっと同じ、一応名が通っている企業で働いていました。ここ数年は業績が良くないらしく、ボーナスが大きく減り昇給がストップ。でもサービス残業も厭わず頑張っていました。「上場企業に勤務している自分」「フルタイムで働きながら育児もしている自分」に、けっこうこだわっていたんです。
でもある時、週5日で30時間働いているママ友と私の手取り収入があまり変わらないことがわかり大ショック。お金がすべてではありませんが、なんか急にキツい思いをしながら頑張っている意味がわからなくなり、辞めたいという思いが日々ふくらんでしまって。思い切って退職しました。
今は近所の工場でパートです。ママ友と井戸端会議しながら単純作業。フルタイムワーママという看板を外してみたら案外気持ちもラクになり、子どもと過ごす時間も増えて「私の小さなプライドより、この働き方でいいんだ」と今は思っています。
◇ ◇
▽Tさん/33歳
育休明け復職をしてから、1度として職場で達成感や満足を感じることがなかったです。時短が終了しても元のポジションには戻れなかったこともあり、〝もやもや〟が消えない部分もありました。あとウチの場合、子どもがよく保育園行きたくない騒動があり、ママおウチにいて、と口にするので、なんとなく子どもへの負い目もあったかも。子どもに「ママの仕事はね」と自分の気持ちをちゃんと話そうとして、そこで「別に仕事をどうしても続けたいわけでもないな」とふっと思っちゃったんです。
ある日、本当に登校拒否みたいに「今日、会社休もう」って思っちゃって。その日の夜、ずる休みしたんだなと改めて思い、「もう仕事辞める」と思わず口にしていました。それが退職のきっかけです。
その後ですが、正直なところ、やはり収入が減るのは大変です。子どもは保育園から幼稚園に転園させたので、小学校入学をメドにして派遣や契約社員で仕事に復職できたらいいなと考えて少しずつ準備しています。でも退職したこと自体は後悔していません。無理して続けてもダメだったと思うから。
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▽Aさん/38歳
外資系を渡り歩き、一時期は夫よりも高収入を得ていました。が、パフォーマンス次第ですから成果が落ちてくると人事評価もダウンするいっぽうで収入も激減。夫もそれなりには家事育児の手伝いはしてくれましたが、バリバリやれるほどのサポートは期待できない中で無理がたたって仕事のミスが頻発するようになったのだと思います。
成果=収入の世界に身を置いていると、それが一気にダウンした時の落ち込みも激しいんですよ。引き留められもせず、淡々と退職。
最初は続けられなかった自分に対する落胆が大きく、ちょっと心神喪失気味だったかも。なんかヤケクソ的に近所にできたキックボクシングをはじめ、それから半年くらいかかって長いトンネルから脱しました。何らかの形で仕事はするつもりでいたのですが、第二子を妊娠。これも神様からのプレゼントだし、今はもう出産して状況を見ながらこれからを考えようとおおらかに構えています。
〝もやもや〟の詰まった風船が割れる時
3人に共通して私が感じたことがあります。
それは「もやもやが膨らみ続けて」ぱんぱんになった風船。ちょっとしたきっかけが針となって、ふくらみ続けた風船がぱーんと割れてしまうような、そんな瞬間に一気に退職を決めた印象です。
それぞれ有能でスキルもあれば経験もある。夫の協力に差はあるでしょうが、それでも育休明け「恐怖の3カ月」を乗り越え、それなりに両立のバランスが取れているように見えていましたが、本当は少しずつ不満や不安が積もっていたのでしょうね。
よくスポーツ選手は引退を決める時が一番難しいと言います。頑張ってずっと働いてきたワーママも同じような所があるのではないでしょうか。
辞めたい。でも…。
収入が減るのももちろん困る。それ以上に、働くことで社会に参加している意識や、企業で成果を出すやり甲斐、妻と母以外にひとりの人間として認められる場所を持つこと、様々な「働く意味」を失うのは、ワーママにとっては大きな決断です。
と同時に「私は母親業が正直大好きというわけでもない」という本音もあっておかしくありません。誰にでも向き不向きがあって、育児が苦手という人だっているでしょう。
今の仕事がどうしてもイヤになるのは決して珍しいことではありません。「辞めたい」と思いながら、もやもやを抱えながら仕事を続けている人も大勢いるはずです。
辞めるのも続けるのも「正しい回答」は自分にある
続ける意味を模索しながらも仕事をするのも一つの方法ならば、思い切って退職の道を選ぶのも一つの選択肢です。退職という区切りをつけて、いったんひと休みし、次の働き方やライフスタイルの方向をじっくり見定めるという決断もあるんですね。
「フルタイムからパートなんて」と最初は思っていた私の友達、今はとても楽しそうです。その彼女もまた、子どもの成長と共に働き口を見つけようとするかもしれません。
私は退職をお勧めしているわけではありません。
女性は、結婚・出産という大きな変化がある。人生のライフステージが一気に変わってしまう重大な岐路の重みを、パートナーである夫に共感してもらうのはなかなか難しい…。
でもこうした様々な変化に、それぞれの答えを出して柔軟に生き方を変えていけるのは、しなやかに生きる女性の強みでもあるように思えます。
どのような決断であっても、その時は悩み不安で「これでいいのかな」と迷うかもしれません。でもやがて「いいんだよね、だって前向きな気持ちで決めたんだから」そう思えるようになれば、それがその女性が自らの努力で得た「もやもやとした迷いに対する正しい回答」なのだと思います。