2021年度大学入試では、Web上での出願(インターネット出願)時に受験生本人による高校入学からこれまでの 「主体性」「多様性」「協働性」に関する活動や経験などの入力が必要となる私立大学が増えています。これは「主体性評価」と呼ばれ、入試において生徒が主体的に学ぶ態度を評価するもの。現在、私立大の多くはそれらの入力を求めるものの点数化はせず、入学後の教育における参考資料として活用するといいます。しかし、将来的には主体性評価を点数化して合否に関わってくる可能性もあるそうです。
このような大学入試の動きをにらんで、入試業務のアウトソーシングビジネスを手掛ける「ODKソリューションズ」(本社:大阪市、代表:勝根秀和、以下ODK)は、主体性評価の採点を行うAIエンジンの開発を進めています。果たして、AIが人間の代わりに採点をすることができるのでしょうか? ODKの取締役で統括経営管理担当の作本宜之さんにお話を伺いました。
大学入試改革で一般入試にも「主体性評価」導入
主体性評価は、学力の3要素のうちの1つ「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性等)」を一般入試でも評価するもの。学力以外に受験生自身のこれまでの取り組みや主体性なども評価の対象とし、文部科学省が進めている大学入試改革の1つです。現在、国公立大学を中心に面接の導入や調査書の点数化、志望理由書の提出などを求める動きがみられます。
中でも、受験生の数が年間数万人を超える私立大の場合、受験生一人ひとりの主体性評価を採点するには膨大な量と想定され、人手で行うのは「現実的ではない」と指摘されています。
そこでODKは、長年にわたり約120万人の志願者データを処理する「大学入試アウトソーシングサービス」を展開するノウハウや技術力を生かし、東大発ベンチャー企業の株式会社リアルグローブ、静岡大学情報学部の綱川隆司講師らと共同で、主体性評価を人間の代わりに行うことのできるAIエンジンの開発を進めています。
AIエンジンを開発、大学側採点者の時間短縮や人員の削減などが狙い
――AIエンジンを開発する狙いを教えてください。
作本さん:ターゲットにしていますのが、有名校を中心とした私立大の一般入試における主体性評価の採点です。私立大の中には10万人規模で受験を実施する大学もありますので、処理能力の有無に加えて採用者側が公平な評価ができるのかどうかという問題などが指摘されています。このため、人間に代わって主体性評価を採点するAIエンジンを開発すれば、大学側採点者の時間短縮や人員の削減などにつながると考えております。
現在、私立大の一般入試においては、まだ主体性評価は採点の対象とはなっていないものの、2021年度入試では慶應義塾大や早稲田大、上智大、青山学院大、明治大といった有名私立大学の多くが、出願時に「主体性」「多様性」「協働性」に関する経験について入力を求めています。今後、採点の対象となった際に、われわれとしては人手を介さずに受験生の主体性評価を解析できるようなAIエンジンをご提供しようと、準備しているところです。
――国公立大の2021年度入試の一般入試では、主体性評価に関して合否を判定する材料の1つとして導入するようですが。
作本さん:私立大と違って国公立大の場合、2次試験は数百人単位ですから、主体性評価を人の力だけでも採点が可能なのだと思います。
――つまり私立大の場合、数万単位を超えた受験生の主体性評価を採点することになるので、人手だけでは難しいということですね。そこで人間の代わりに採点を行うAIエンジンを貴社では開発中とのこと。AIエンジンとは、一体どういうものですか?
作本さん:現在、私立大の一般入試においては、Web上での出願時に主体性項目を入力させるところまででとどまっていますが、われわれが検討しているのは、就職活動でいうところのエントリーシート的なものを想定しています。それをペーパーインタビューと呼んでおり、そこにこれまでの取り組みを受験生に入力していただいて提出してもらうわけです。このペーパーインタビューを、人間に代わってAIエンジンが採点します。
各大学が評価基準を設定、AIエンジンが評価項目ごとに点数化
――人がやるにしてもAIがやるにしても、ルーブリック(評価基準)が大事になってきますが。
作本さん:はい。評価基準は大事ですので、ルーブリックという評定表(以下、ルーブリック表)を作成し、その中で評価項目を設定していきます。項目ごとに関連するさまざまなキーワードがございますので、そのキーワードの重み付けや関連性の評価をAIで行うような仕組みになっています。
どの評価項目が重要なのかというのは、各大学のアドミッションポリシー(AP、入学者受け入れ方針)によって違ってくると考えております。今は各校のアドミッションポリシーに基づいてルーブリック表に評価項目を設定し、その評価の項目を基に点数化していくようなAIエンジンを開発しています。
また、AIエンジンの開発だけではなく、一部の私立大学さまにご協力を得ながらAIエンジンを使う上でどのようなルーブリック表にするといいかも含めてご相談しているところです。
AIエンジンがキーワードを抽出して評価基準との相関関係をみる
――具体的に、受験生がWeb上で入力・提出するというペーパーインタビューをAIエンジンはどのように点数化していくのでしょうか?
作本さん:1つの例を挙げますと、ペーパーインタビューに「自分ひとりでは対処が難しかったと事柄とその対応策を記載してください」といった設問があったとします。そこに受験生がこれまでの活動や経験に基づき、問われている困難な事柄やその対応策について入力していただきます。その入力した回答に対して、ルーブリック表上にあらかじめ記載された「情報収集」「現状把握」「目標設定」「リーダーシップ」「計画性」などの評価基準項目に基づいてAIエンジンはキーワードを見つけ出し、項目との関連性を読み取って重み付けをしながら点数化していきます。
AIエンジンの中には3つのエンジンがあるのですが、そのうち1つ目はキーワードを文節などの単位ごとに抽出する「キーワードエンジン」です。キーワードを抽出するだけではなく、キーワードそのものが設問に対して適当なのかどうかなども精査します。2つ目は「相関のエンジン」と呼ばれるもの。キーワードと評価基準との相関関係をみていきます。3つ目は、「特徴量エンジン」といって文字数や言葉のバリエーションなどを精査。例えば、言葉のバリエーションの量が評価にどう関係しているのかなどをみます。
人が評価済みのペーパーインタビューを基にAIエンジンが機械学習
――かなり細かいところまで分析できるAIエンジンですね。
はい。受験生の皆さんはいろいろこだわられて文章を書かれてくると思いますので、単純にキーワードの数だけをカウントするだけではAIでやる意味はありません。AIエンジンは、キーワードの検出や精査する機能に加えて、人間が評価済みのペーパーインタビューを用いて評価対象となる複数の評価観点(項目)ごとにキーワードとその観点の評価値との関係も機械学習していきます。
このように機械学習をすることなどで人間が評価するプロセスをAIエンジンに習得させ、より人間に近い評価ができるよう目指しているところです。
――なるほど。AIエンジンが人間に近い形で評価できるようになれば、主体性評価の基準も明確化され、採点者や採点のタイミングによる評価のブレもほとんどなくなり、公平な評価ができるようになるということですね。現時点では、AIエンジンの導入はいつごろになりそうですか?
私立大を中心に2024年度の導入を目指しています。現在の課題は、より人間の評価に近付けるためにAIに機械学習させるデータ量の継続的な増強やルーブリック(評価基準)の精査をしながら、AIエンジン自体の精度を高めていくことです。ですから、実働までにいろいろ試す必要があります。
当社の受験生を対象としたアンケート調査結果によると、やはり、主体性評価に対して「採点者によって評価が変わってしまう」といった不安を抱いている受験生は多いようです。その不安をわれわれのテクノロジーで解消できればいいなと願いながらAIエンジンの導入に向けて取り組んでいます。
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■ODKソリューションズ■
大学横断型の受験ポータルサイト「UCARO®(ウカロ)」を私立大中心に提供。出願、スケジュール管理、大学との個別連絡や合否照会、入学手続など、出願から入学までの手続きなどを一元管理できるもの。現在約30万人が利用しており、受験生の2人に1人が使っているという。このほか、遠隔地にいる受験生とWeb上で面接が可能な入試向け動画面接サービス「Movie インタビュー for University」も開始するなど、大学入試のIT化を支えるサービスを提供している。