首都圏の23年中学入試 男子校、ワンランク上の学校にチャレンジ受験増 全落ちする受験生も…24年入試はどうなる?

東条 青波 東条 青波

ここ十数年で過去最高の受験者数5万2千人を超えたという2023年の首都圏の私立・国立への中学受験。塾関係者の間でも「厳しい入試だった」との声が上がるほど、今回は例年以上に熾烈な”争い”だったといいます。そんな中、2024年の中学入試がどうなるのか? 数々の受験生や保護者を見てきたという中学受験専門の塾を経営する“カリスマ教師”の榎本勝仁(えのもと・かつひと)さんに、23年の入試を振り返りながら来年の受験生に向けて志望校選びや勉強の心構えなど、お話を伺いました。

過去最高の5万2千人を超える私立・国立中受験者数 大学入試改革を見据え、中高一貫校への期待感が高い?

――首都圏模試センターによると、東京・神奈川・千葉・埼玉1都3県(2月10日現在)、入試受験者数5万2千600人、受験率は17.86%と少子化とは思えないほど中学受験市場は活況を呈しました。

「はい。今年卒業を迎えた児童数は約30万人(首都圏)。東京入試初日の2月1日だけでも受験者が4万3000人くらいいましたからね。リーマンショックが起きた2008年以降から受験者数は減少していたのですが、徐々に増えて。コロナ禍で一時期落ち込んだものの感染も落ち着いてきた23年、過去最高の受験者数となったようですね。

とはいっても、少子化ですのでそろそろ頭打ちだとは思います。来年は首都圏における6年生の児童数が前年よりも6000人以上減るといわれていますが、受験率などを考えると今年と変わらないとみていますので、引き続き厳しい入試になるかと…。2025年の大学入試改革を見据え、中高一貫の私立中などへの期待感が高まっている要因にもなっていると思います」

――首都圏の入試は、1月10日の埼玉県を皮切りに、1月20日から千葉県、そして2月1日から東京都・神奈川県と行われました。前受け受験として例年たくさんの受験生が出願する栄東中(さいたま市)も、栄東A日程(10日・11日)の出願者数合計が7800人を超えるなど最高記録を更新したとか。

「昨年10月に実施された大手塾などが行う4大模試での志望校の状況を見て、前年よりさらに増えることは予測していました。また千葉入試でも難関の渋谷幕張中(千葉市)、市川中(市川市)などが前年より受験者が増加。というのも、21年、22年とコロナ禍真っただ中の受験時は、2月1日から始まる東京入試を本命とする受験生の多くは感染を恐れて、1月20日から始まる千葉入試を避けていました。ところが、感染が徐々に落ち着いてきましたので、東京組の人たちが前受けとして千葉入試に戻ってきたようです」

倍率3倍超の男子校が目立った 男子は付属校よりも進学校志向が強い

――コロナ感染が落ち着いたこともあり、埼玉・千葉入試も前年より受験者が増えた学校もあったわけですね。東京・神奈川入試も受験者数が前年より増えた学校は、厳しい入試になったと。

「特に男子校ですね。大手塾・四谷大塚の偏差値でいうと、50以上の学校を受験する子たちが7割から8割。男子校は倍率3倍以上のところが目立ちました。付属校よりも進学校志向も強く、また昨年よりもチャレンジ受験が多かったと感じます。自分の偏差値よりも5くらい上辺りの学校をチャレンジ…そのため、”返り討ち”に遭って全落ちする男子の受験生も。そして今回、新校舎ができた開成中(荒川区)、早稲田中(新宿区)、海城中(新宿区)などが人気を集めましたね」

――つまり、今年男子校には安全志向よりもチャレンジ志向の志願者が多く集まったということですね。このほか、受験生の中には「難易度が上がった」「合格最低点が高くなった」との声も耳にしました。

「隔年現象で、前年が易しいと次年度が難しくなる傾向にあります。合格最低点が上がった学校といえば豊島岡女子中(豊島区)。入試は2日、3日、4日と計3回行われたのですが、受験者数については昨年比微減で1回目が2.4倍とほぼ例年並み。どの教科でも受験者平均で6から7割ほどの点数がほとんどで、今年3回で国語の受験者平均点数が8割ほどと高かったそうです。合格点はいずれの回も全体の7割前後と高く、減ったといっても、偏差値が届かないチャレンジ受験者が少なかったようです。また桜蔭中(文京区)の併願者が多く、レベルの高い受験者を取り込めたのではないかと思います」

大学付属校の多くが受験者数を減らす 人気が落ち着いた?

――一方で、近年人気だった早稲田実業(東京都国分寺市)・早稲田大学高等学院(練馬区)、慶應義塾中等部(港区)・普通部(横浜市)など大学付属校の多くが受験者数を減らしました。

「昨年10月に行われた4大模試の志望校の状況から減ることは予測していました。今までの人気が落ち着き、確実に合格を狙う受験者が多かったと思います。ただ慶應の中等部の場合、募集人員が140名から20名減少したこともあり、受験者を減らした要因ともなっているようです。

また、2026年から共学化し、明治大学の系列校となる日本学園中(世田谷区)の2月1日入試に受験者が殺到。このため、同日入試があった日大豊山中(文京区)や法政大学中(東京都三鷹市)の受験者数が減少、同じ明治系で2日に入試を行った明大中野中(中野区)も前年より減りました。日本学園中に受験者が流れたようです」

――話題を集めたのが、新設校の芝国際中(港区、元・東京女子学園)。定員120人のところに2月の延べ出願者が4千人を超えました。なぜ?

「女子校から共学化し、校名に『国際』と引っさげた新設校は今年も注目の的でしたね。特に芝国際中は12階建ての校舎を新設し、サイエンスインターナショナルスクールが同居するなど、グローバル教育を全面的に打ち出した学校です。また塾対象の説明会に参加した際の先生方のプレゼンの上手さに驚きました。話終わった後、拍手が上がったんです。塾の先生というのはある意味冷めていますから拍手なんてまずしないんですが…。

これまで何百回もいろいろな学校の説明会に足を運びましたが、これまで拍手が上がったのは過去に大宮開成高校が中学を新設する際、当時高校の体育科教師だった山本博さんが登壇したときくらい。当時アテネオリンピックが開催された年でアーチェリーの選手として銀メダルを取った有名人でしたから…芝国際中に関しては、おそらくプレゼンの上手さもあって説明会に参加した保護者の期待値が高かったのでは?とも感じます」

24年も「厳しい入試」と予測 偏差値だけで決めるのは危険! 志望校の説明会に足を運んで

――コロナ感染が落ち着き、中学受験市場が盛り上がった23年。24年の中学受験生に向けて、志望校の選び方や勉強の取り組み方などをお聞かせください。

「第一志望だけではなく併願校を決める際にやるべきことは、まず各学校の説明会に足を運ぶことです。コロナ禍のときはオンライン説明会も多かったとは思いますが、感染が落ち着いた今は実際に自分たちの目で確かめることが大切です。偏差値だけで志望校を決めるのは危険。

さらに、重要なのは大学入試に向けてのカリキュラムであったり、進路指導がどうなっているのかを見極めること。2025年から始まる新課程大学入試対応をはじめ、総合型選抜・学校推薦型など推薦系選抜対策はどうなのか…センター試験を受けた親世代とは全く違います。多くの私立大学は6割方推薦で決まるのが現状です。国公立も今推薦での枠をどんどん増やしており、中学受験でも将来を見据えた学校選びが欠かせません。

勉強については、まずはもちろん基本テキストをしっかりやりこむとともに、志望校が決まり次第過去問題に早めに手を付けること。ゴールデンウイーク辺りに目を通しておくことをお勧めします。本人でなくても保護者が見ておく。どんな問題が出るのか、どんな形式なのか。少なくとも記述が多いのか少ないのか、自分の意見を述べる問題が出るのかどうかなど解答用紙を見るだけでもいいです。直近の入試から先に見ましょう。また受ける学校の過去問題だけではなく、類似する学校の過去問題に取り組むことも効果的です。例えば、男子でも出題傾向の似ている女子校の問題をやってみてもよいでしょう。

最後に受験生の皆さんにお伝えしたいのは1週間のスケジュールを立てて、勉強をする時間枠を増やしていくことです。昨日は30分もできなかったから、今日は2時間勉強をするといった無計画なやり方は避けてください。理想を言えば、1週間で受験勉強に50時間確保することですね。24年も厳しい入試となりそうなので肝に銘じて取り組んでいきましょう」

※榎本勝仁さんは、東京・横浜を拠点に有名私立中学受験対策・中学受験専門の家庭教師センター「アクセス」や個別指導塾などを経営。自らも家庭教師や個別指導塾などで直接指導をしており、これまで東京・御三家をはじめ早慶の付属や海城、桐朋など難関中に多数合格させています。また「文房具フル活用術」など多数の著書があります。

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