思わずほっこり、神戸の商店街に大型タペストリー その絵と言葉に込められた思いとは?

國松 珠実 國松 珠実

日常の活気が戻りつつある神戸の中心地、三宮の商店街。「三宮センター街2丁目商店街」にかかる大型タペストリーが、「やさしい気持ちになる」と評判だ。縦4メートル、幅3.5メートルの中に縦書きで「握手はできないけど 心はつながっているね」の文字。隣に大型犬のデッサン画が、「おつかれさま」という言葉とともに描かれる。少し眠たげにゆるむ犬の表情に、こちらもほっこり和む。

誰が制作?大型タペストリー秘話

「文字は縦書き。道ゆく人がふと見上げた時、上下に視線を走らせた方が、ストレスがないからね」と教えてくれたのは、2丁目商店街振興組合理事長の久利計一さん。大型犬はセントバーナードで、久利さんと深い親交のあった洋画家、鴨井玲さんが描いたものだ。

「特にこの半年間、みなさん全力でがんばってきたのだから。タペストリーを見上げて、『そうか。自分たちは、この辺りでいったん休んでもいいのだ』と思っていただいても良い時期ではないでしょうか」。それが、「おつかれさま」の6文字に込めたメッセージだ。久利さんは、文言や書体、文字の大きさや太さにまでこだわる。

そう、このタペストリーは、毎回文言から画の選定まで、久利さん自らがデザインを手がけているのだ。

「専門家ではありませんから、何が正解か、自分でもわかりません。ただどういうメッセージをどのような形で発信すべきか。『そうそう、これこれ!』と、カチッとはまる感覚を信じて制作します」。

前回の、5月から掲げられていたタペストリーのデザインは、「私達は 負けない」という力強いゴシック体の言葉と不死鳥だった。頭をぐっと高く上げた姿に、勇気と強い気持ちが表された画も、久利さん所蔵の鴨井さんの作品だ。困難に直面して、初めてその人の本当の価値や強さが分かるという意味の「疾風知勁草(疾風に勁草を知る)」という言葉が添えられたタペストリーから一転、張り詰めた心をやさしく包み込むものとなった。

ともに歩む商店街に

セントバーナードのデッサンのオリジナルは、同じく2丁目商店街にある久利さんの眼鏡店、「マイスター大学堂」の壁にかかる。店先の、季節感あふれるディスプレイが道ゆく人の足を止める。

なぜ広告や宣伝ではなく、商店街からのメッセージを込めたタペストリーなのだろう。久利さんは商店街が「街づくり」を唱える時、自分たちだけなく、住人や買い物で訪れる人たちがいてこそ、街が形づくられるという大切なことを忘れてはならないと語る。

「私たち商店街は、三宮という空間をお借りしているのです。商店街を歩く人たちと、ともに歩む存在でありたい。それゆえに訪れた人がほっと和み、共感いただけるメッセージを発信しなければと考えます」。

 タペストリーのデザインを変える時期は決まっていない。タイミングは「産毛に感じるほどのわずかな世間の空気の変化を感じとり、決める」という。ただし、年初めにはいつもデザインを一新する。取材中も、次のデザイン案を片手に「疲れた、しんどい、でもとてもおもしろかった!……そういう仕事をしなければね」。これからも、みんなが三宮を歩きたくなる街にしていきたいと楽しげに語ってくれた。

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