クロクロがいた夏 自宅の門の前で私を待ち伏せしていた猫…いつしか特別な存在に

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

ジョディ・フォスター主演の『君がいた夏』という美しくて切なくて泣ける映画がありますが、夏の思い出は、ほかの季節の思い出より特別な感じがしますが、いかがでしょう。私には、『クロクロがいた夏』の思い出があります。

昔の出来事なのですが、当時は外猫が珍しくなく、特にここ滋賀県の古い城下町では代々猫が外で生活を営んでいました。

うちの家のデッキには、ダイズ君という白黒猫がよく遊びに来ていました。勝手にクロちゃんと呼んでかわいがっていましたが、ある日首輪をつけてきたことがあり、首輪に手紙を結びつけてみたところ、翌日返信が返ってきたという伝書鳩のようなエピソードがあります。そのときにダイズ君という本名と、近所で飼われている猫ということが判明しました。そんな想い出深い猫と同じ時期に出会った猫のお話です。

ダイズ君は、飼い猫なので寒い冬は室内で過ごすことが多く、我が家には全く遊びに来ませんでした。ある大晦日の昼間、玄関横の車の下からニャーニャー騒ぐ猫の鳴き声が聞こえました。見ると白黒猫で、一瞬『ダイズ君かな?』と思いましたが、よく見ると模様は似ているのですが違う猫でした。

ご飯を与えるとすぐに寄ってきてたくさん食べました。とても人慣れした猫だったので、勝手な想像で、飼い猫だけれども、年末年始で飼い主がどこかに行ってしまい、ご飯がもらえなくなって困りはて、さまよっていたのだと考えました。ダイズ君は本名が分かるまではクロちゃんと呼んでいたので、この子はクロクロと名付けました。しかし、クロクロはそれっきり、姿を現しませんでした。やっぱり想像どおりだったのかな…。

そう思って一年が過ぎました。そしてまた年末になり、クロクロが現れました。やっぱり誰かに飼われているのだろうか?と考えましたが、去年よりも体が薄汚れています。そして、その年の春から夏にかけては、ダイズ君が全くうちに来なくなり、代わりに、クロクロがたびたび来るようになりました。クロクロはダイズ君と違って、ごはんを与えるとモリモリ食べました。そして、けんかの傷が絶えませんでした。やはり地域猫だろうと考えるようになりました。

去勢して傷も手当してあげたい…そう思いましたが、当時の私は電車通勤の勤務医で、勤務先の病院にクロクロを連れていくことは、なかなか難しそうでした。休日にクロクロが現れたら捕まえて、車で勤務先の病院に連れて行って治療することの許可は取り付けましたが、肝心のクロクロは、そう考えている日にはやって来ませんでした。

そんなことを考えているうちに、クロクロは、毎晩私が帰ってくる時間になると、自宅の門の前で待ち伏せするようになりました。

あの夏も、昼間は強烈な暑さでしたが、夜になると涼しい風が街を吹き抜ける中、クロクロは『おかえりなさい。遅かったやんかぁ〜』と言っているように、門の前でスフィンクス座りをしていました。

門を開けると、クロクロが私よりも先に敷地内に入っていき、玄関の前で座って晩ごはんを待つようになりました。クロクロは門を通らなくとも、勝手に生垣の下を潜り抜けてうちの敷地に入れるのですけれどもね。

家の中には私の飼っている猫が3匹おりましたので、私は帰宅するや否や、家の中の3匹とそとの1匹に『早く晩ごはんくれ~』攻撃に合うこととなりました。4匹が一斉に大声で鳴くのです。毎晩大変でした。

そんなこんなで夏が過ぎていきました。

しかし、秋が深まるころ、クロクロはふぃっと来なくなりました。きっと、もっとおいしいごはんがもらえる新しいパトロンが出来たのでしょう。ごはんの時間には来ませんが、過ごしやすい秋の昼はうちの庭や、エアコン室外機の上や、玄関の前で、お昼寝していました。

あるとき、2年ぶりくらいにうちにダイズ君がやってきました。ところがその頃はクロクロがうちに入り浸っていたので、玄関で鉢合わせとなり、大喧嘩が始まりました。2匹とも同じ模様なのでどっちがどっちかわからなかったのですが、私はけんかの仲裁に入り、咬まれました。二股かけていた彼氏同士が鉢合わせした気分でした。

クロクロとのお別れは、突然やってきました。ある日、隣の空き地の草むらでじっとたたずんでいるクロクロを見かけました。どうしたのかな?心配になり、傍まで行って抱き上げましたが、外見では特に変わった様子はありませんでした。でも、最近痩せてきているなとは思っていました。

それ以来、クロクロの姿を見ることはありませんでした。

いまでも夏の夜に家の門に立つと、門を開けると先に中に入っていったクロクロのことを思い出します。

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