障害を乗り越えて「うれしい!」「楽しい!」を全身で表現…ドイツ語で「祝福」と名付けられた元保護犬

岡部 充代 岡部 充代

 ゼーゲンちゃんは3歳になったばかり(推定)の元保護犬。人に駆け寄っていくときも、オモチャで遊ぶときも、すべて全力!の元気女子です。「うれしい」「楽しい」「大好き」を全身で表現するその姿はとても愛くるしく、周囲の人たちを笑顔にしてくれるのですが…その動きには少し不自然なところがあります。「知的発達障害の疑いあり」と診断されていて、足の関節を脱きゅうしやすいなどのハンディを抱えているのです。

 生後10日目くらいの子犬4姉妹が保護されたのは2017年10月のこと。野犬のお母さんがちゃんと子育てしていたようで、3匹は元気でした。でも、ゼーゲンちゃんは体重208グラムと他の子に比べてかなり小さく、衰弱していたと言います。

「他の子は丸々太っていたのにゼーゲンだけが小さくて。まだ離乳できていませんから、数時間おきのミルクやりが必要なのはどの子も同じですが、ゼーゲンは点滴をしたり、体温キープのためにタオルにくるんだりと特別なお世話が必要でしたね」

 3年前の様子を教えてくれたのは、犬の保護・譲渡活動を行うピースワンコ・ジャパン生駒譲渡センターで店長を務める吉田木綿さん。4姉妹が保護されたのは広島県ですが、当時、吉田さんはピースワンコ・ジャパンのシェルターがある広島・神石高原町にいて、子犬たちをお世話した一人だったのです。

 スタッフさんたちの献身的なお世話のかいあって、4匹の命は救われました。ただ、ゼーゲンちゃんは発育不良の影響か自立さえ難しく、前足を水泳のクロールのように動かして前に進んでいた時期もあったそうです。

「前足をケガしてしまったこともありましたが、リードの引き方にコツがあると分かって、スタッフもゼーゲンも歩き方を覚えて行きました。本を読んでもゼーゲンの育て方は書いていない。試行錯誤するしかありませんでしたね」(吉田さん)

 里親募集が始まると、18年秋に関東で開催された大きな譲渡会に参加しました。でも残念ながらご縁はなく、広島への帰り道、奈良で途中下車して里親探しを継続することに。店舗スタッフやボランティアの間ではすぐ人気者になりましたが、「家族に」と言ってくれる人はなかなか現れません。

「興味を持って会いに来てくださる方はいましたが、トライアルまで進んだことはなかったですね。私たちもゼーゲンの姿を見て『かわいそう』という反応をする方には譲渡できないと思っていました」(吉田さん)

 そんなゼーゲンちゃんを「かわいそう」ではなく「かわいい」と言ってくれるご家族が現れたのは今年6月。保護犬を迎えることを考えていた大阪・八尾市の杉江知恵子さんは、ゼーゲンちゃんの動画を見て「この子だ!」と思ったそうです。

「新しいハーネスを着けたゼーちゃんが、『うれしー!』と言っているのが聞こえてくるような動画でした」(杉江さん)

 センターを訪れた知恵子さんと母・のり子さんは、初対面のゼーゲンちゃんが「私たちを受け入れてくれた」と感じたと言います。それくらい人懐っこかったのです。でも、どんなにかわいくても、障害を抱えているのは事実。即決はせず、他の家族としっかり相談して後日、改めて申し込みました。

 7月14日、公式Facebookでゼーゲンちゃんの卒業が報告されると、いつも以上にたくさんの「いいね!」が付きました。当日は複数のボランティアさんがお見送りに来たと言いますから、どれだけ愛されていたかが分かります。「みんなのアイドルでしたからね」と吉田さん。保護されて2年半、生駒に来て1年半。ゼーゲンちゃんに家族ができる日をみんな待っていたのです。

「ヒトと一緒にいるのが大好きで、それを全身で表現してくれます。“家族”になり切ってくれていますね。障害なんかに負けない、ポジティブですごい力を持った子だと思います」と知恵子さん。母・のり子さんも「障害を乗り越えて、愛されたい!を体全体で表します。コロナで外の人と会う機会が減って家の中もギクシャクした時期がありましたけど、この子が“親善犬”になってくれました。ワンちゃんの存在は大きいです」と笑顔を見せてくれました。

 ゼーゲンはドイツ語で「祝福」「恵み」「幸運」などの意味があります。

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