「ガス点検」装う強盗多発、コロナ自粛の高齢者狙い、生活苦でバイト感覚の実行犯も…小川氏が解説

小川 泰平 小川 泰平
コロナ自粛で在宅の高齢者が狙われている(stock.adobe.com)
コロナ自粛で在宅の高齢者が狙われている(stock.adobe.com)

 「ガスの点検」などを装って家に侵入し、住人を縛って現金やキャッシュカードを奪う強盗事件が8月から9月下旬にかけて多発していることを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は26日、当サイトの取材に対し、同一グループの犯行と指摘。コロナ禍で仕事を失うなど生活が苦しくなり、SNSの募集に応じる「バイト感覚の実行犯」の存在にも言及した。

 9月10日に大阪府藤井寺市内の住宅で「防火点検」を装って訪問した複数の男が85歳女性の手足を縛り、現金約20万円などを奪った強盗事件が発生。逮捕された3人の容疑者は事件の2日前にSNSで「闇バイト」として強盗の実行犯を募集するような書き込みに応募したと供述。報酬の100万円は支払われなかったと話し、関東や名古屋での犯行も明かしたという。

 23日には東京都足立区の集合自宅に「ガスの検針です」などと偽って部屋に侵入した2人組の男が70代男性を襲って粘着テープで口をふさぎ、両手両足を縛り、現金30万円を奪って逃走。さらに、翌24日は同区の都営住宅で「ガス点検」を装った男2人組が80代男性の両足を粘着テープで縛り、3時間後に帰宅した70代の妻の足も粘着テープで縛ってキャッシュカード複数枚を奪った。犯人は「警察に言わなければ粘着テープをほどいてやる」と夫婦に伝え、ほどいて逃走した。

 首都圏では、8月に鎌倉市、川崎市、松戸市、東京・新宿区、9月に横浜市、東京・町田市、東村山市、世田谷区、足立区(2件)でこうした「点検強盗」が確認され、大阪など全国で発生している。東京ガスでは「作業員は原則、1人で訪問。制服着用、身分証を提示。点検の案内は7ー14日前に書面で投函。訪問予定日欄は原則、印字されており、手書きなら偽造の可能性。問い合わせ番号は原則、固定電話で、携帯電話なら偽造の可能性あり」などと注意を呼び掛ける。

 小川氏は「捜査関係の話で、今月20日から起きた事件では20代男性2人組と、もう1組は20代と50代の男性。実行犯は多少違うが、同じグループによる犯行とみていいと思います」と推測。グループには主犯格がおり、その下に指示役がいると思われる。「アポ電」で家族構成や経済状況などを聞き出し、下調べした上で、実行犯をSNSで募集し、狙った家に「点検」を装って押し入る…という流れになる。

 小川氏は「家族構成、昼間は自宅に1人でいるのかなどを聞き、アンケート等を装って『自宅に非常時用の現金を置いているか、銀行等のキャッシュカードは何枚持っているか』といった内容等を先にアポ電で聞き出している」と補足。「最初はコロナの話題などをして、お金の話はなかなかしません。緊急持ち出し用のお金を自宅に置いているか。金額は100万円以上か以下か?など、具体的な金額までは聞かない。また、SNSで募集した実行犯には、捕まるリスクがない理由として『犯行後には別の仲間が警察官を装い現場にすぐに入り、被害届を書かせ、捜査が行われているように見せるから事件が発覚しない。大丈夫だ』と、募集の実行犯に説明していたようだ」と、その手口を付け加えた。

 コロナ禍の影響も大きい。小川氏は「コロナで在宅率が高いこともあります。ゲートボールや接骨院への通院などで普段外出していた高齢者の大半が自宅で自粛するようになり、高齢者のコミュニティは電話になっています。これまでは留守電にしていた人も、家にいるのでアポ電に出てしまう。最初からお金の話をしないので、つい話し込んでしまう」と説明。防御策として「常に留守電にすること、防犯対策用の録音付き電話にすること、約束のない訪問者を家に上げないこと」の3点を挙げた。

 一方、加害者側にもコロナの影響がある。

 小川氏は「コロナで生活が苦しくなった者がSNSで『闇バイト』に応募するケースです。実際、闇バイトがやりたいわけではないので、募集する主犯側は『このバイトは犯罪になるが、捕まるリスクはない』などと説明をする。犯行後に警察官を装った者が現場に突入して被害届を出させたふりをし、捜査しているように見せかけるので事件にはならないからと。それプラス報酬は100万円。でも100万円など絶対にくれません。1件、強盗したからといって、100万円以上の金を得ることはあまりないですし、主犯側が払うわけがない。ただ、報酬が5万円や10万円では誰も強盗はしないので、100万円で持ちかけるのです」と解説した。

 そんな「バイト強盗」の特徴は「素人」という。小川氏は「夫婦の強盗事件で『警察に連絡しないなら』と言って、縛っていたテープをほどいたが、これはアルバイトの犯罪者で素人だからです。強盗しておいて『やさしい』というと言い方は悪いですけど、そこまで犯罪意識が高い者ではない。本来ならアルバイトを地道にやっていた者がコロナによって飲食店が時短になり、バイトの量が減り、他にもバイトがなくて困っているところに、おいしい話があって、悪いと思いながらも関わってしまっているのが現状です」と説明した。

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