時の止まった5年前のカレンダー…熊谷事件で無期確定、被害者遺族にも上告権を!

小川 泰平 小川 泰平

 埼玉県熊谷市で2015年9月に住民6人を殺害したとして強盗殺人などの罪に問われたペルー人、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(35)の弁護側が無罪を求めた上告を9日付で棄却する決定がされ、一審の死刑判決を破棄し、心神耗弱を認めて無期懲役とした二審東京高裁判決が確定したことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は11日、当サイトの取材に対し、裁判員裁判の継続や被害者遺族の上告権を認める法改正を訴えた。

 小川氏は「事件が発生した5年前の9月から取材を通して寄り添い、今も定期的にお会いして相談に乗っている」という被害者遺族の加藤さん(47)から、今回の決定を受けて、その胸中を聞いた。加藤さんは妻の美和子さん(41)、小学5年だった長女美咲さん(10)、同2年の次女春花さん(7)=いずれも当時=を殺害された。

 小川氏は「悔しい、今は何も考えられない、納得できない、裁判をやり直して欲しい…と、加藤さんは訴えています。特に、検察が上告してくれなかったことが悔しいと。一審では『責任能力があった』としながら、二審では、新たな事実が出てきたわけではないのに、どこをどう捉えて『心神耗弱』となったのか、意味が分からない、この怒りをどこにぶつけていいのか分からない…と、やり切れない思いを吐露されていました」と代弁した。

 裁判員裁判となった一審さいたま地裁(18年3月)では、被告の統合失調症を認めた上で「完全責任能力」を認定して死刑判決となったが、二審東京高裁(19年12月)で心神耗弱状態だったとして無期懲役に減刑。この時点で、検察側は上告を断念し、弁護側は「無罪」を訴えて上告した。判決は無期懲役か無罪の二択となり、今回、上告が棄却されたことで無期懲役が確定した。

 加藤さんは「上告の権利を被害者側にも与えてほしい。」と訴えてきたが、その権利は被害者側にはない。小川氏は「何のための裁判員裁判だったのかと、加藤さんは嘆いています。一審では裁判員の方も、いろんな悩みや苦労を乗り越えて出した死刑判決について涙ぐんでおられました。その思いが全く報われなかった」と付け加えた。

 被害者遺族の代理人を務めた髙橋正人弁護士は当サイトの取材に対して「フランスでは『参審員』と言いますが、日本でいうところの裁判員裁判が2回できるのです。日本でも控訴審がフランスと同様に裁判員裁判にできないか。また、ドイツには被害者側の上訴権があり、それは決して奇異な制度ではない。日本の司法制度は被害者や市民の意見を取れ入れる世界の潮流に反している」と解説した。だが、いまだ実現に至る道は険しいようだ。

 今月16日で事件から5年。加藤さんにとって家族3人の命日となる。小川氏は「加藤さんの自宅には5年前のカレンダーがそのままかけられていました。5年前の9月16日も水曜日でした。事件で延期になったのですが、その翌週23日の欄には『運動会』とメモされていて、それがそのまま残されています」と証言。加藤さんにとって、15年9月で家族との時間は永遠に止まってしまった。

 それでも、家族との絆を継続している姿もあった。小川氏は「加藤さんは自転車のハンドルの中央に使わなくなったスマホを設置し、奥さんと娘さん2人の画像が見られる状態にして景色のいい場所に出かけ、『家族』と一緒に景色を眺めているそうです。生前から、そうやっていい景色を家族みんなで見るのが好きだったからということでした」と明かした。妻子を一度に亡くして1人になった男性が、喪失感の中で過ごす日々の一断面がそこにあった。

 小川氏は「加害者の権利は守られていても、日本では被害者や被害者遺族の権利は弱いのだということを、今回、つくづく思い知らされました」と実感を込めた、さらに、同氏は「加藤さんの落ち込み様をそばで見ていて、私も言葉がないですが、ただ言えることは、今回の判決が、裁判員裁判を二審以降も継続できるようにするか、被害者遺族の上告権を認める法改正につながる契機になってほしいということです」と訴えた。

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