「すぐやる課」。腰の重い「お役所仕事」へのアンチテーゼとして昭和の時代に生まれた言葉であるが、全国の自治体の中には51年前に発足した千葉県松戸市をはじめ、実際にこの名称の部署が複数存在している。その「理念」が改めてクローズアップされた出来事が東京の地下鉄構内で起きた。
舞台は東京メトロ銀座線の銀座駅。渋谷と浅草を結ぶ19の停車駅を表示したサインシステム(案内板)がホームと逆の誤表記となっていた画像と、一夜にして応急処置的に訂正された画像を2日連続投稿したツイートが話題になった。
ツイッター・ユーザーの「きせしょう」(@kiseshou)さんが9月1日に「この前はじめて『逆方向の電車に乗る』というミスを銀座駅で犯してしまったんだけど、きょうやっと理由がわかった」とのコメントと共に画像を投稿。右側に「渋谷方面 1」、左側に「浅草方面 2」と記された案内板が掲げられているのだが、ホームは右側が浅草方面行きの2番線、左側が渋谷方面行きの1番線と、真逆だった。その「ねじれ現象」が一目で分かる構図の画像が注目され、13万件近くの「いいね」と約5万件のリツイートなど大反響を呼んだ。
翌2日、訂正版が案内板の上に紙で貼られると、きせしょうさんはその画像も投稿し、「すごい!一晩で対応してる!!たまたまかもしれないけど、東京メトロ(@tokyometro_info)さん ありがとうございます!!」とツイート。同日のタイミングから、投稿が対応をうながしたとみるリブもあった。
きせしょうさんは当サイトの取材に「間違いを発見した状況は、再びここを通ったときに『あのとき間違えたのはなんでだろ』とふと思って見てみたら気づいたという感じです。貼り紙を発見した状況は、翌朝、再び通ったときに変わっていた、ということのみです」と明かし、自身の投稿との因果関係については分からないという。
そこで、東京メトロに経緯をうかがった。同社の担当者は当サイトに「9月1日に銀座駅駅員が巡回中に気付き、担当部署へ連絡があった後、 取引先へ修正の仮設対応の指示を行わせて頂きました。それは投稿より前の時間でした」と説明。方向を間違えた案内板は8月27日から掲示されていたが、ツイッターで気づいたわけではなく、駅員の発見が投稿と同日であったため、対応が重なったのは偶然だという。
では、誤表記の理由は?
担当者は「階段2か所とエスカレーター1か所は浅草方面に向いた、降りる階段となっており、当該設置箇所のみ渋谷方面に向かって降りる階段になっていたが、浅草方面に向いた同一のサインを4か所製作してしまっていたため、1・2番線の誤表記が発生いたしました」と釈明。つまり、4経路のうち3か所は浅草方面が左手に見え、別の1か所は逆に渋谷方面が左手に見えるようになっているにもかかわらず、4枚全てを同一にしていたことが原因だった。
担当者は「紙製の仮設サインを上貼りして修正対応しております。修正したサインの本設置は9月5日の終車後に実施されました」と説明、過去については「同様の事例はございません」という。非常に珍しい出来事だった。
ツイッターでは「鉄道事故を翌朝までに復旧するのと同じ使命感で成し遂げた仕事」「このスピードは神対応」「すぐに動ける組織になっていて、動いたということに感動」などの評価が続いた。きせしょうさんも「ここまでたくさんの方が(自身の投稿を)見ることになったことへの驚き、『東京メトロさんにご負担をおかけして申し訳ない』気持ちと『ミスは誰でもすることなので、東京メトロさんの素早い対応が素晴らしい』という称賛の気持ちが同時にあります」という。
同社の担当者は「そのようなお声を頂けたことは大変ありがたく思いますが、誤表記についてお客様へご迷惑をおかけしてしまったことは深く反省しております。今後は同様の事象が起きないように注意して作業を進めてまいります」と間違いを受け止めた上で、再発防止を誓った。
もちろん最初から間違えないことが一番ではあるものの、ミス後のリカバリーとその速さへの評価が今回の特色。「すぐやる課 GJ 全ての官庁や役所は見習って欲しいですね」との投稿に見られるように、公的機関の「お役所仕事」に対する不満の裏返しが、今回の迅速な対応への拍手となったのかもしれない。まさに「紙(神)対応」だった。