銭湯で明かされるパンダの「秘密」を描き、子どもたちの人気を集める絵本「パンダ銭湯」の舞台「パンダ湯」が、京都市北区の銭湯「むらさき湯」で再現されている。浴場や脱衣所、入り口の至る所にパンダが登場することから、「初顔」の家族連れも多く来店するようになった。人気絵本が銭湯に新しい風を吹き込んでいる。
パンダ銭湯は、京都市在住の亀山達矢さん(43)と中川敦子さん(42)夫妻によるアートユニット「tupera tupera(ツペラツペラ)」の作品で、2013年の初版以来、50万部近くを売り上げたベストセラー絵本。パンダ親子が「パンダのためのお風呂屋さん『パンダ湯』」を訪れ、知られざるパンダの「真の姿」が明らかになる物語だ。
むらさき湯は、今年で創業90周年を迎えた町の銭湯。客層の高齢化に加え、コロナ禍で客足が遠のく中、若い家族連れに来てもらおうと、出版元の「絵本館」(東京都杉並区)の協力で7月28日に「パンダ湯」を始めた。
玄関に「パンダ湯」と書かれたのれんをかけ、立看板型の「パンダ親子」を入り口に並べた。ロッカーや浴場にはパンダ湯のロゴマークや絵本のコピーが張られ、すっかり絵本の世界になっている。
また、絵本に登場するアイテム「パンダワックス」や「竹林牛乳」を探すミニゲームや、名場面「チャ!」を体験できるグッズ(ネタバレになるので、分からない方は原作をお読みください)など、楽しめるしかけも用意されている。
絵本に登場する「サササイダー」も置こうと探したが、見つからなかったので、代わりに石川県などの地サイダーが並ぶ。
スタート以来、「銭湯初体験」の子どもを連れた親子が何組も訪れるようになった。「パンダ湯」が銭湯初体験となった小学2年の男の子(7)は、「大きいお風呂は面白い」。毎週むらさき湯に来ているという小学5年の女の子(11)は、「もともと家に『パンダ銭湯』の本があったので、見たときはびっくりした」と笑顔で話した。
店主の林真弓さん(62)は「銭湯が初めて、というお客さんがすごく増えました」と喜ぶ。1960~70年代の最盛期と比べれば、近年の客数は3~4割は減っていた。加えてコロナ禍で客足はさらに落ち込んだ。
しかし、「パンダ湯」を始めて以降は「コロナによる落ち込み分はカバーできた」(林さん)といい、「小さい子が銭湯を経験してくれるのがうれしい。こうした取り組みで、若い世代が銭湯に楽しいイメージを持ってくれれば」と見据える。
8月中旬には、作者の亀山さんも小学2年の長男を連れてむらさき湯を訪れた。亀山さんは今回の企画には直接関わっておらず、「『どうなってるかな?』と行ってみたら、銭湯側のアイデアもたくさんあった。脱衣所でみんなが輪になって交流するなど、すごくいい雰囲気でした」と喜ぶ。
そして、亀山さんは「絵本は何も無いところに人を引き留める力があると思っている。絵本と銭湯がコラボして、人がとどまるコミュニケーション空間が生まれたのがうれしい」と話す。
むらさき湯の「パンダ湯」は、笹の葉が続く限り(9月6日頃になくなりそうとのこと)営業する予定だが、残っていれば延長の可能性もあるという。
ちなみに「パンダ湯」は京都だけでなく、名古屋市東区の「平田温泉」で8月31日まで、大阪市阿倍野区の「湯処あべの橋」では9月2日まで開かれている。