盲導犬育成の難しさ…合格率は約3割、1頭あたりの育成費用約800万円! コロナで進まぬ募金活動に危機感も

岡部 充代 岡部 充代

 8月某日。ハーネスを付けた盲導犬候補生が訓練士と町中の歩行訓練をしていました。もちろん、暑さに十分配慮しながら。Hちゃんは『社会福祉法人 日本ライトハウス 盲導犬訓練所』(大阪府南河内郡)に所属する雌の候補犬で、訓練を始めて約半年。すでに訓練終盤のようで、スムーズに歩いているように見えました。

 盲導犬は利用者(訓練時は訓練士)の左側に立ち、道路の左側を歩く。曲がるときは道幅が狭くても一度道路を渡り、直角に曲がってまた左側を歩く。交差点や段差の前では一時停止する。障害物があれば、手前で止まるかよけて歩くかの判断をする。車道側にいる利用者が車と接触しないかを見極めて、止まるか進むかの判断をする。などなど、盲導犬には最初から決められているルール、瞬時に判断しなければならないことがたくさんあります。

 訓練所の赤川芳子所長代理に解説してもらいながら後ろをついて歩くと、Hちゃんがいかに考えながら歩いているかが分かりました。例えば、少し前にゆっくり歩く女性がいたとき。Hちゃんはタイミングを図って追い越そうとしましたが、そのときちょうど前方から対向者が。すると、追い越すのをやめてスピードを落としました。そうした判断と行動はすべて、ハーネスを通じて利用者に伝わると言います。

 候補犬の中で実際に盲導犬になれるのは約3割。それだけ育成は難しいということですが、そもそも盲導犬に求められる資質とはどのようなものなのでしょうか。

「誤解を恐れずに言えば、こちらにとって都合のいい性格かどうかですね。吠えるのが好きじゃなくて、雷も怖くないし、猫を見ても追いかけない。でも車のクラクションを聞いてボーッとしているようでは困りますから、危険を察知する感受性は必要です。それでいてどこでも寝られる図太さや、知らない場所や知らない人、つまり環境の変化への耐性も求められます」(赤川さん)

 たしかに、人間にとって都合のいいことばかりです。でも、そうでなければ盲導犬にはなれません。

「健康であることは大前提として、そういう性格を満たす繁殖犬を作ることが、私たちにとって最大の仕事かもしれません。いい盲導犬を育てるには、優秀な繁殖犬を作ることが絶対条件なんです」(赤川さん)

 繁殖犬は普段、ボランティアさんの家で生活しています。そして出産後、盲導犬候補の子犬たちは生後2カ月まで母犬やきょうだい犬と一緒に暮らして犬同士のコミュニケーションを学び、1歳まで「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティアの家庭に預けられます。その後、訓練所に戻って約1週間の「気質テスト」。長いリードをつけてさまざまな環境に連れて行き、どのような反応をするかを見るそうです。

 盲導犬になれるのは約3割と書きましたが、残る7割の半分は、この段階でふるいにかけられるのだとか。そして、合格した犬たちは訓練へと進み、約半年から1年、訓練士から多くのことを学びます。その中間と最後に行われるのが「アイマスクテスト」で、訓練士がアイマスクをして視覚障がい者と同じ状況で歩行し、「できること」と「できないこと」をあぶり出すのだと言います。

「何点以上で合格、といった明確な基準はありません。項目はいろいろありますが、それらはすべてできて当たり前。ただ、できなくても即不合格ではなくて、血統を見て『あのお父さんとお母さんの子供なら、もう少し訓練すればできるだろう』といった総合的な判断を訓練士がしています」(赤川さん)

 

 日本で活躍する盲導犬は2019年現在、909頭。10年前は1070頭でしたから、150頭以上も減ったことになります(社会福祉法人日本盲人社会福祉協議会自立支援施設部会盲導犬委員会発表)。2002年に『身体障害者補助犬法』が施行され、公共施設や交通機関、スーパー、飲食店、職場などで補助犬(盲導犬、介助犬、聴導犬)同伴の受け入れが義務付けられたことと逆行しているように思えますが、そこには育成の難しさに加え、視覚障がい者が盲導犬を欲しいと思っても、簡単には迎えられない事情もあります。

「初めて盲導犬を取得する方は4週間、2頭目以降でも2~3週間、訓練所で共同訓練を行う必要があるのですが、日本でそんなに長く仕事を休むのは簡単ではありません。盲導犬の普及率が高い欧米との違いはそこにあると思います」(赤川さん)

 そしてもう1つ。これは育成の難しさにもつながるのですが、盲導犬を1頭育成するには約800万円掛かるそうです。利用者への貸与は無償ですから、行政からの助成金と寄付で賄うしかなく、前者が約20%、後者が約80%。つまり、大半は寄付に頼らざるを得ない状況です。

 その寄付も、今年は新型コロナウィルスの影響で募金活動ができず、収入減。現在、クラウドファンディングサイト『READYFOR』で盲導犬育成にかかる医療費の寄付を募っています。関心を持っていただける方はぜひサイトをご覧ください。

■READYFOR https://readyfor.jp/projects/guidedog-lighthouse

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