川遊びにバーベキュー、大阪の美しい村に大量のゴミが散乱 「仕掛学」の松村教授に対策を聞いた

渡辺 陽 渡辺 陽

大阪府南河内郡にある千早赤阪村。府下最高峰の金剛山や大和葛城山など深い緑に抱かれ、田園風景が広がる美しい村です。奈良県との県境に葛城山の登山口があり、そのすぐ近くには水越川という清流が流れています。

このあたりは普段は静かな地域なのですが、コロナ禍、登山客や川遊びやバーベキューを楽しむ家族連れや若者たちがたくさん訪れました。密ではないかと思われるほどです。その結果、ただ人が集まるだけではなく、駐車場や水越川のほとりには大量のゴミが散乱したのです。バーベキューに使った網やスナック菓子の袋、ジュースの容器、ビニール袋が散らかっていて見る影もありません。このようなことは、千早赤阪村に限らず、他の地域でも起こったのではないでしょうか。

ゴミのポイ捨て問題を解決する方法はないのか、「仕掛学(しかけがく)」を提唱する大阪大学経済学研究科の松村真宏教授に聞いてみました。

「他の人が捨てているから、まあいいや」と思ってしまう

――「仕掛学」とは何なのでしょうか。

松村真宏教授(以下、松村) 仕掛学は、仕掛けによって人の行動を変える学問なのですが、行動変化を強要するのではなく、魅力的な行動の選択肢を増やすことで自発的に行動変化を促し、目的に合った行動に導くものです。

――遠方からわざわざきれいな場所に来て、ゴミのポイ捨てをする神経が分からないのですが。

松村 すべての人にマナーを守れと言っても無理です 。どうしても一定数マナー意識の低い人がいる。ただ、遅らせる方法はいろいろあります。

最初からゴミが目につくような場所ではポイ捨てすることに抵抗がなくなります。「他の人が捨てているからいいや」とポイ捨てしやすくなるのです。他の人は、もともとゴミを捨てようと思って捨てたわけではないかもしれません。たまたま風で飛ばされたのかもしれませんが、それが目に入ると、「他の人が捨てているからいいや」と考えてしまう。ポイ捨ては、ひとつでもゴミがあると一気に増えることが分かっています。

 ゴミと産物や炭を交換する仕掛け

――仕掛学を使って解決する方法はあるのでしょうか。

松村 仕掛学を使うのであれば、「ゴミを使って何かできないか」という発想になります。ゴミを捨てる人は、ゴミを持って帰らないといけないと分かった上で捨てています。ですから、彼らにモラルを説いても効果はありません。啓発のために看板を立てるのも、あまり意味がありません。ゴミをゼロにはできないので、ゴミを利用する、ゴミがあるからこそできるイベントをしかけます。

阪大の周辺では、ゴミ集めを競うイベントがたまに開催されています。チームで参加して、制限時間を決めてゴミを集めるのです。ゴミをたくさん集めたチームが勝ちです。ゲーム形式にして競うようにすれば、楽しくゴミ収集もできるし、啓蒙活動にもなる。これはひとつの対症療法のアプローチです。たくさんゴミを拾ってくれたチームには、村で収穫できる野菜をあげたり、温泉があるなら招待したり、外部から来た人にメリットがあるようにすればいいんです。村は、何らかの対価を出す必要がありますが、それは決して無駄にはならない。イメージアップにつなげたらいいのです。

バーベキュー場なら、ゴミと炭の交換ブースを作って交換してもいいでしょう。炭を持って行くのは面倒だし、現地で足りなくなることもあります。持って行くのは面倒だけど、ゴミ拾いをして炭をもらえるのであれば、お互いWIN-WINの関係になれます。

WIN-WINになるように設計する

――仕掛けのポイントは、WIN-WINなんですね。

松村 そうです。仕掛けを使う場合は、WIN-WINになるように設計しなければなりません。ああしなさい、こうしなさいと言うのではなく、言われなくても自発的についアクションを起こしたくなるような楽しさやメリットが双方にあればいい。参加者は、ゴミを拾うことによって何かいいことが起こればいいし、村からすればゴミを拾ってくれた人に何らかの恩返しができればいいのです。無理のない範囲で回せるようなものであればいいと思います。仕掛けを使えば、多少ゴミが残されても勝手に回収される仕組みになっていくのです。

◆松村真宏(まつむら・なおひろ) 1975年大阪生まれ。1998年大阪大学基礎工学部卒業。2003年東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。2017年より大阪大学大学院経済学研究科教授。「仕掛学」を創始し,仕掛学の研究・実装・普及に従事。著書は『仕掛学』(東洋経済新報社)、『人を動かす「仕掛け」』(PHP研究所)、『しかけは世界を変える!!』(徳間書店)など。

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