山が燃えている→「今回は山火事ではありません」「発火した原因で呼び方が変わるんです」…<消防署編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

消防署は身近にありながら、そこで働く人たちと直接言葉を交わすことがほとんどない。よく見ているわりに、じつは未知の世界ではないだろうか。緊張と緊迫感の中で使われる用語には、私たちもよく使うけれど用語としての意味を知らない言葉もある。消防OBで民間企業の防災部門にも携わったU氏に教えを請うた。

そもそも「火災」ってなに? という超基本的なお話

あたりまえのように「火事」とか「火災」というけれど、用語としての意味を正しく知らないことに気がついた。

「なにをもって火災というか、消防庁が定義した3つの条件があります」

その3条件とは「人の意に反して発生もしくは拡大し、または放火によって発生」「消火を要する燃焼現象」「消火のための施設またはこれと同程度の道具を必要とする」とされている。

さらに「人の意図に反して発生、もしくは拡大した爆発現象も含む」とある。

「山火事は、ちょっとややこしいです。発生した原因で『火事』とか『火災』とか、呼び方が変わります」

山や森林などで広範囲に燃え広がる火災を、一般に「山火事」と呼んでいる。だが消防の世界では、そう単純ではないらしい。

「山の森林が燃える原因はタバコや焚火の不始末、失火、放火など人が絡むもののほかに、落雷や火山の噴火など自然現象もあります」

これらのうち人の不注意または故意によるものを「火災」といい、自然現象によるものを「火事」という。ただし火災でも「山火災」とはいわないそうで、言葉にするときは「山火事」というからややこしい。

「これは、まぁ分類上の話ですね」

では「ボヤ」とは何なのだろう。

「火災の一種ですが、きわめて規模の小さなもの」

数字で表すと、焼損部分の損害額が燃える前の評価額の1割未満で、焼損した床面積が1平方メートル未満か収容物だけが燃えた場合を「ボヤ」という。

十数年間、誰も気づかなかった? すべり棒

昔の消防署でよく見かけた「すべり棒」。2階から1階の車庫へ、すべり棒を伝って颯爽と降り立ち、消防車に飛び乗って火災現場へ急ぐ消防隊員はカッコイイ。

「あれは、とっくに廃止されました」

1965年頃から全国の消防署に設置されたが、階段を使ったほうが早くて安全なことが判明したため、1970年代の後半には撤去され始め、消防署を新築する際は初めから設置されなくなった。

階段のほうが早いって、10年以上誰も気づかなかったの?

「廃止が決まった当時は、笑う人もいたでしょうね。すべり棒は安全管理上、1人ずつしか降りられません。階段を使えば、いっぺんに何人も降りられますものね」

最後に、細かい用語を簡単に聞いてみた。

消防職員のうち現場で消火活動や救助活動を行う隊員を指して一般に「消防士」と呼ぶが、正しくは「消防吏員(しょうぼうりいん)」という。「吏員」とは地方公務員のこと。

消防吏員には階級があって、いちばん下から「消防士」「消防副士長」「消防士長」「消防司令補」「消防司令」「消防司令長」「消防監」「消防正監」「消防司監」「消防総監」となっている。ただし職員の数や自治体の人口によって、消防長(消防の責任者)を務める階級は異なる。

「救助」もよく聞く言葉だが、大きく分けて「一般救助」「交通救助」「山岳救助」「水難救助」「NBC災害」の5種類ある。NBC災害とは「Nuclear(核)」「Biological(生物)」「Chemical(化学物質)」による特殊災害のこと。

救助に当たる部隊は、任務や装備によって「救助隊」「特別救助隊」「高度救助隊」「特別高度救助隊」と区分され、求められる機能が高度になっていく。

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