今回ご紹介する猫ちゃん、その名は「セカイイチ」ちゃん。名前の由来は、当時飼い主さんがはまっていたコミック「白鳥麗子でございます」の主人公が飼っていた犬の名前から。来院の機会が少ない健康な猫ちゃんだったのですが、まれに膀胱炎になると、さぁ大変。どんな猫ちゃんも落ち着かせてしまう経験豊富なスタッフをしてもなだめることができず、大声で叫ぶわ暴れるわで、その勇ましさは、まさにセカイイチ。打つ手もなく診察をお断りしてしまった、後にも先にも例のない、名前も行動もインパクトの大きい猫ちゃんだったのです。
そんな状況ではありましたが、飼い主さんがとても理解のある方で、「セカイさんを病気にさせないようにしよう」と、健康管理を怠らず、処方食も長年続けてくださったので、体調を崩すこともなく、セカイイチちゃんのカルテは処方食の記載だけで、来院の記載はありませんでした。
そんなセカイイチちゃんとの再会は、なんと彼が22歳になった時。食欲も元気もなく、昔とは打って変わって、おとなしくなってしまったセカイイチちゃんは検査でも治療でも何でもやらせてくれました。腎臓の機能がかなり弱っていましたが、翌日にはごはんを食べ始め、1週間後には血液検査の数値もかなり下がっており、驚異的な回復力を見せてくれました。
その回復力もまたセカイイチ。腎臓機能を維持するために定期的に病院に通い続け、セカイイチちゃんは、23歳を迎え、当院のご長寿さんにも選ばれました。ごはんが進まない日があっても、元気がない日があっても、決して諦めることなくセカイイチちゃんのお世話をし、通院に協力してくれた優しいご家族がいたからこそだと、感動し、喜びであふれていたことを思い出します。
現在は、セカイイチちゃんの次世代の猫ちゃんたちが通院してくれており、その武勇伝は今でも院内で語り継がれています。
◆小林由美子(こばやし・ゆみこ) 獣医師。1990年開業の埼玉県ふじみ野市「こばやし動物病院」院長。米国で動物の東洋医学、自然療法を学ぶ。治療はもちろん予防やしつけなどにも造詣が深く、講演活動も行う。ペットと飼い主双方に寄り添う診療が信頼を得ている。