糖尿病の愛猫のために夫婦の帰省は別々に…一日2回のインスリン注射で元気に生活

岡部 充代 岡部 充代

 猫も糖尿病になる? はい、なります。そして糖尿病を患った場合、獣医師指導の下、飼い主が自宅で毎日インスリン注射を打つ必要があります。それは人間の1型糖尿病(一部2型も)患者と同じ。糖の吸収に必須のインスリンが分泌されない、または非常に不足しているため、生涯に渡り一日数回、自己注射等でインスリン補充をして血糖コントロールをしなければならないのです。

 

 マロンちゃんは6月6日で15歳になる黒猫。2005年に北海道のある家の庭先で、野良のお母さんが産んだ5匹のうちの1匹でした。母猫は交通事故で亡くなってしまい、家主が子猫たちの里親探しをしたのですが、最後に残ったマロンちゃんを引き取ったのが、友人だった加藤愛子さんです。

 その後、ご主人の転勤で神奈川へ引っ越した加藤さん。マロンちゃんの体調に異変を感じたのは17年3月のことでした。

「下痢が1か月近く続いて、何かのアレルギーなのか、体をひどくかゆがったんです。病院でアレルギーの薬や下痢止めを処方してもらっても良くならなくて…。別の病院を受診してステロイド剤を処方されたら、下痢が止まってかゆみも軽減したようでした」(加藤さん)

 獣医師に報告すると、今度は約1カ月効果が持続するステロイドを注射してくれました。しかし、マロンちゃんはみるみる衰弱。4.5キロだった体重が、3日で1キロ減ったと言います。

「注射した翌日から様子が気になってはいたんです。いつも寝る場所で寝ないから、ちゃんと眠れているのかなとか。週末を挟んで病院へ行くと、血中の中性脂肪値が高いのと、脱水状態だということで入院になりました。家に帰っていろいろ考えていると、いつからか水を飲む量や尿の量が増えていることに気づいたんです。いろいろ調べたら、糖尿病の症状にピタリと当てはまっていました」(加藤さん)

 血液検査の結果から、獣医師は急性膵炎を疑いましたが、加藤さんから「多飲多尿」と聞き、糖尿病の可能性ありと診断。退院翌日からインスリン投与が始まりました。

 

 一日2回の注射が必要となり、病院通いはほぼ不可能。幸い、インスリンは血管に針を刺す静脈内注射ではなく皮下注射のため、指導を受ければ飼い主でも打つことができました。こうして加藤家では朝晩2回、12時間おきにマロンちゃんにインスリン注射を打つことになったのです。

「インスリンの量を調整するのに苦労しましたが、マロンはどんどん元気になってくれました。血糖値の測定も以前は病院でしてもらっていたけれど、半年くらい前から家でしているんですよ。その方がマロンにとってストレスが少ないので」(加藤さん)

 

 17年12月に再び転勤で兵庫へ引っ越し、かかりつけ医を変更しなければなりませんでしたが、「またいい先生に出会えました」と加藤さん。注射にもずいぶん慣れてきました。精神的な支えとなったのは、神奈川時代の獣医師の言葉だそうです。

「厳密に12時間おきじゃなくても大丈夫だし、少しくらい具合が悪そうだと思っても、ごはんさえ食べていれば大丈夫だからと言ってもらったんです。ちゃんと注射を打てるだろうか、もし忘れたらどうしようと不安が大きかったので、先生の言葉に救われました。紙に書いて冷蔵庫に貼っているんですよ(笑)」(加藤さん)

 

 犬と違い、猫は2―3日の外泊であれば留守番させる飼い主さんもいますし、ペットホテルなどに預ける方もいます。でも、マロンちゃんはそうはいきません。加藤さんとご主人の行信さんはどちらも札幌市出身ですが、実家への帰省は別々。数時間だけ重なることはあっても、一緒に泊まることはありません。「親には一緒に帰ってきてほしいと言われますが、マロンを置いては行けませんからね」と行信さん。愛子さんは「糖尿病と診断されて、もう一度、覚悟を問われた気がします」と、当時のことを振り返りました。

「友人に子猫を引き取ってくれないかと相談されたときは独身だったので、ひとりで飼っていけるか1週間くらい考えたんです。子猫のときのミルクやりは実家の母に手伝ってもらいましたが、そのとき以来の覚悟を問われた気がします。ちゃんと守っていけるのかって。マロンを置いて旅行などには行けませんが、元気でいてくれればそれで十分です」(加藤さん)

 体をかゆがっていた原因は不明のままで、今も激しく舐めることがありますが、ステロイドは使わず共存していく道を選択しました。糖尿病も上手に付き合っていけば、マロンちゃんはまだまだ長生きできるでしょう。実家のご両親には少しだけ我慢してもらって…。

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