大阪市中央区の商業施設、船場(せんば)センタービルが今年で開館50周年を迎えた。これを記念した短編アニメ映画「忘れたフリをして」が、6月末から同ビルの特設サイト「DEEPな船場をディグろう」で公開されている。約13分の映像の中で、ビルの魅力はどんな風にディグられ(掘り起こされ)ているのだろうか?
ビルの外壁は近代的に改装されているが、中に入ると古き良き昭和の雰囲気があちこちに残っている。東西約1kmにわたって10棟が連なることで「日本で一番横に長いショッピングセンター」と言われるほど珍しい建物でもある。そんな個性的なビルの映画なら、大阪らしく「笑い」の要素も加えながら、明るく楽しく濃いめの味付けで仕上がるのではと想像してみたが…。
ツイッターに投稿された映画の感想は、「切ない」、「泣いてしまった」、「控え目に言って素晴らしすぎ」、「行ってみたくなる」などと感動を伝える言葉であふれかえった。たちまち評判が広まり、公開翌日には「船場センタービル」がトレンド入りした。
映画の原作漫画を描いた町田洋さんは、漫画の依頼を受ける数か月前まで「うつ病」を患っていた。回復しても「描きたいもの(うつ病)しか描くことができない」という状態だったが、他の制作陣の賛同もあり、ビルの物語と自身のうつ病の経験を織り交ぜた作品にすることを試みた。
町田さんは取材のために関東から来阪。ビルを4日かけて歩き回る中で目にとまったものをじっくり見つめ、店看板を「かわいい」、商店で働く人を「美しい」と感じるなど、昔から変わらない日常風景を独自の優しい視点で丁寧に描いた。
ビルの管理事務所で記念事業に携わる松岡廣美さんと田中寛之さんは最初、「記念映画なのに、なぜ『うつ病』?」と驚いたそうだ。しかし、「典型的な大阪らしさとは違う角度から描かれたことで、多くの若い人にも興味を持ってもらえてよかった。とらえ方は観る人に委ねられているところもありますが、最終的には『前向いて生きようや!』というメッセージが込められているのではないでしょうか」と田中さん。松岡さんは「短期間のうちにビルの特徴をつかんで描いてくださったと思います。私達には見慣れた風景でも、初めて来た人にはこういう印象なのだなと新鮮でした」と話す。
ところで、ツイッターには「関西人はこのビルの良さに気付いていない」という投稿もあったが、この映画を機に、地元・船場の人たちもビルの魅力を再認識したことだろう。卸問屋が多く入居していることから一般人は入りにくいと思われがちだが、「婦人服から雑貨、日用品まで、小売のお店も前より増えています。ぜひ一度、掘り出し物を探しに来てほしい」と松岡さん、田中さんは呼びかける。現在は基本的に日曜日と祝日は休館しているが、今後は開館することも検討中だという。