新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府が2月末に突如要請した全国一斉休校を「世紀の愚策」と批判していた元文部官僚の寺脇研氏。現在も企画・統括プロデュースを務めた映画「子どもたちをよろしく」のPRで全国を飛び回るかたわら、社会や教育の問題に対しても積極的に発言を続けている。7月下旬、上映後のトークイベントに登壇するため大阪を訪れた寺脇氏に、コロナ禍で映画館が直面している現状などについて話を聞いた。
「子どもたちをよろしく」は、子どもたちを取り巻くいじめや貧困の問題を扱った作品。ロケ地である群馬県での2月22日の先行公開を皮切りに全国で順次公開されており、今後の予定も含めると上映館は50館にも上る。いずれもミニシアターと呼ばれる小規模な映画館ばかりだ。
満員電車はOKで映画館は席の間隔を空ける?
「今は感染対策としてミニシアターも大きなシネコンも関係なく、客席の間隔を空けているけど、空ける必要なんて全くないと思う。映画館って実は換気基準がものすごく厳しくて、一定の空調設備の整備が義務づけられているんですよ」
映画プロデューサーだけでなく映画評論家の顔も持ち、映画館を愛する寺脇氏はそう訴える。
「大体、乗車人数の規制をしていない満員電車が毎日走っているのに、映画館は隣の席に座るのもダメだなんて、どういう理屈なの?『電車は窓が開けられる』と言うけど、映画館だって換気は普段から徹底しているんだから。もう少し科学的に考えてくれよ、と言いたくもなりますよ」
とはいえ、席を空けるなどの対策は、政府の方針や専門家の提言に従って全国興行生活衛生同業組合連合会が定めたガイドラインに盛り込まれている。全文を読むと、映画館からクラスターなどが発生することのないよう神経を尖らせていることがよくわかる。
それでも寺脇氏は「“密”を避けることが本来の目的なのに、1席空けることが目的化している。同調圧力のようなものだ」と指摘。「流行の初期とは違い、今は新型コロナウイルスの特徴もある程度わかってきているんだから、どの映画館も一律に客席を半分にする必要はない。夫婦や恋人、友人同士が隣の席に座ってもいいじゃないですか。自民党麻生派のパーティーには1000人も集めるくせに、民間にはこういう理不尽を強いるなんておかしいですよ」と語気を強める。
もっと自分の頭で考えよう
映画館のガイドラインに限らず、一斉休校やアベノマスク全戸配布など、政府の対応はどれも「一律」でやろうとするために問題が生じてしまう、と寺脇氏は言う。通底するのは「自ら考えること」を放棄する方向に向かってきた社会のあり方だといい、「必要な対策は個々で違うはずのに、思考停止している」と批判する。その上で、自身が官僚時代に旗振り役を務めた「ゆとり教育」についてこう言及した。
「否定的な意見も多かったが、ゆとり教育は子どもたちに自分で考える力を身につけさせようというものだった。もはや日本は世界第2位の経済大国ではないし、予想外の災害も頻発する。コロナ禍も長引くこんな時代に必要とされるのは、かつてゆとり教育が目指していた自己責任(最近用いられる弱者切り捨て用語としてではなく、自らの尊厳において選択や行動に責任を持つという本来の意味での自己責任です)で判断し、行動できる人なのではないかと感じています」
◾️「子どもたちをよろしく」公式サイト http://kodomoyoroshiku.com/