新型コロナウイルスの感染拡大による休校措置の長期化で、にわかに浮上した「9月入学」問題。今週報道各社が発表した世論調査結果では「賛成」が「反対」を上回っており、現役受験生らからは「出遅れが取り戻せる」「青春を取り戻したい」などの声も強い。一方で、教育界からは十分な移行期間の確保を含め、慎重な議論を求める声が相次ぎ、現場の教師や大学からも「正直、今は遅れを取り戻すので精いっぱいで、余裕はない。教育を政治に利用しないで欲しい」と悲鳴が上がっている。
「青春を、時間を取り戻したい」の一方、現場はひっ迫
当サイトの「どなどな探検隊」には、大阪府内の私立高校3年の娘を持つ母親からこんなメールが届いた。
「中高一貫校のため、6年間必死でやってきた部活は最後の大会も開催中止が決まってしまいました。ショックは大きく、気持ちの整理がつかないまま休校の延長が続き、自宅学習の毎日です。このまま受験となると不安が大きい」
そもそも真冬の入試はインフルエンザ等の流行と重なりやすく、新型コロナウイルスも再拡大しかねないといった懸念も。報道機関の世論調査では賛成が5割を超え、民間機関のものでも賛成が反対を上回っている(グラフ参照)。「仕切り直し」への期待に加え、海外では秋入学が標準で国際競争力を付けられることや、これまで何度も議論の俎上に上りながら断念されてきた「鉄壁」を破れる―との思いも強い。
一方で、政府が来秋実施を検討し6月上旬に方向性をまとめると報じられたことに対し、日本教育学会や日本PTA全国協議会を始め教育界は懸念を強める。入試担当を務める関西地方の大学教授も「今は連休明けから始まったオンライン講義の対応で手いっぱいで9月入学や入試方法の具体的な話は何もしていない。来年1~3月の入試を実施しないということだろうが、そこまでの結論を夏までに出すのは現実的に難しいのでは」と指摘する。別の私立大学関係者は「秋入学になれば入学金の納入が半期遅れ、前期分の授業料がゼロになり経営への打撃も大きい。国が補填してくれるのでしょうか」と話す。
学年編成の変更が余儀なくされるため、それに対応した授業を行う必要もあるが、神戸市内のある教員は「今現場は遅れを取り戻そうと、オンラインも含めた学習課題の準備に追われ、校内行事や修学旅行をどうするかなど検討事案も山積み。この状況で現在の学年が半分に割れるなら、教員は今の倍必要。そもそも一斉休校も学習対応も、文科省や教育委員会からの指示は二転三転して、挙げ句『政治判断』まで。教育改革の話は国民ウケは良いんでしょうが、将来的な方向性は別として、今はもう許して」と悲鳴を上げる。
現在も可能な「秋入学」…共通テストでなく各大学で試験を 寺脇研氏
元文部官僚で教育問題に詳しい寺脇研氏は「医療や生活を支えることに全力を尽くすべきこの状況で、9月入学など真剣に議論するに値しない」とピシャリ。「新型コロナウイルスとはこの先も共存していかなければならないだろう」とした上で、「学校に関してはまず、『感染がどの程度まで収束すれば再開するのか』という基準を一刻も早く示すべき。再開できる地域は6月からでも7月からでも再開すればいい」と強調する。
ただ、大学受験を控える高校3年生には、国による特別措置の必要があることを指摘。「文部科学省は今すぐにでも『来年1月の大学入学共通テストは延期する』『皆さんができるだけ不利にならないような措置を講じる』とアナウンスして、不安を感じている受験生たちを安心させてほしい」
一方、浪人生については「共通テストを受けなくても、各大学が特別に試験をしてはどうか」、中学3年生の高校受験には「各自治体が特例を設けるなどの判断を」と提案。「9月入学なんて言い出す前に、できること、やるべきことは山ほどあるはずですよ」と話す。
とはいえ、寺脇氏も大学の9月入学は「議論してもいい」との考えという。「大学はそもそも学年制ではなく単位制。秋入学の制度は現在もある」として、「これまで通り春入学と秋入学を選べるようにしておけば、9月入学に移行してもそこまで大きな支障はないのではないか」としている。
(まいどなニュース/広畑 千春・黒川 裕生)