五輪やカジノ、万博より子どもたちに救いの手を 元文部官僚が映画で問題提起

黒川 裕生 黒川 裕生

虐待や貧困、いじめなど、今の子どもたちを取り巻く過酷な現実を描いた映画「子どもたちをよろしく」が、3月13日から関西で封切られる。企画と統括プロデューサーを務めたのは、元文部官僚の寺脇研氏。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、映画業界も大きな打撃を受けているタイミングでの公開となるが、「この状況で本作を選んで見てくれる人は、強い問題意識がある人。子どもたちを救いたいという私たちの思いも、きっと共有してくれるはず」と期待する。

官僚時代は「ミスター文部省」と呼ばれ、退官後も民間の教育者という立場から社会教育問題に積極的に関わる寺脇氏。本作は、五輪やカジノ、万博などでどこか浮足立っている風潮に対し、「そんなことよりも、今まさに困難に直面している子どもたちに手を差し伸べるべきでは」と警鐘を鳴らすべく企画された。寺脇氏がこれまで見聞きしてきた事例を盛り込みながら、隅田靖監督がおよそ3年かけて脚本を練り上げたという。

子どもの問題を映画で見せる意味

映画の舞台は北関東のとある街。義父から性的虐待を受けつつデリヘルで働く少女や、同級生にいじめられている男子中学生、その父親でギャンブル依存症の男性など、それぞれ根深い問題を抱えた人たちが登場する。特に、公共料金を払うことができず、ライフラインを止められた家庭の描写が容赦ない。

「食事はインスタントラーメンだけで、しかもガスを止められているから袋からそのままバリバリ食べる。映画ってのはすごくて、火や電気が使えない暮らしの惨めさ、寒さが映像としてダイレクトに伝わってくるじゃないですか。今回、本や講演などではなく、映画という表現を選んだ最大の狙いはそこです」

「商業目的の映画ではない」

東京五輪・パラリンピックを控えた狂騒から一転、新型コロナウイルスの感染拡大により、今はスポーツだけでなく映画を含むエンタメ業界への影響も日毎に深刻さを増している。それでも寺脇氏は「私が大手映画会社の人間だったら危機感を覚えるかもしれないが、この映画を作ったのは商業目的ではないので関係ない」と断言。「貧困が固定化されていた昔とは違い、今はそういった問題が見えにくくなっている。子どもたちが人知れず置かれている現実や私たちの問題意識が、1人でも多くの人に届けばいい。東京ではすでに公開しているが、このご時世、確かに観客は多いとは言い難い。それでもSNSなどには熱い感想が寄せられている」と前向きに語る。

そんな寺脇氏は、安倍晋三首相が“要請”する形で始まった全国一斉の臨時休校には極めて批判的な立場だ。

「いくら新型コロナウイルスの感染拡大防止といっても、本作で取り上げたような子どもたちの状況を少しでも認識しているトップなら、一斉休校なんていう選択肢は出てくるはずがない。虐待を受けている子は、学校にいる間だけが安心できる時間かもしれない。ひとり親や共働き家庭の子は、親が働いている間どうするの?放課後児童クラブ(学童保育)の受け入れにも限界があるでしょう。そういう実態が全然わかっていないと思う」

「行動を制限された子どもたちが、自宅に缶詰め状態にされている異様な状況が続く今。この映画が、子どもの問題を改めて問い直す意義は決して小さくないはずですよ」

関西での上映は、3月13日からテアトル梅田と京都みなみ会館、14日から神戸の元町映画館で。本作のキャンペーンで全国を飛び回る自称「映画の行商人」の寺脇氏は、14日にテアトル梅田、15日に京都みなみ会館と元町映画館で舞台挨拶する予定。

■「子どもたちをよろしく」 http://kodomoyoroshiku.com/

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