人が人を愛し、求めることは自然現象であり、その心理的な発達は乳児が母親を求めることから始まります。
母性的な安心感をもとに、子供は外の世界へと歩き出し、転じて友人や恋人など特定の仲間やパートナーを作り、生きるためのネットワークを築いていきます。
個人の生き方は時代により変化していますが、人は親から離れ、愛着関係を築きながら恋愛や結婚といった文化を発展させてきました。
恋愛も結婚も、時間や感情を共有する点は同じですが、異なる点もあります。
恋愛は、感情を優先した愛着関係であり、親子関係で体験していた“甘えの時間”を作り出します。自身の中に眠る“幼児性”を発揮し、時にはパートナーを困らせるような言動をしますが、許容されることで、自分にとって安心できる存在であるかを無意識的に確認しているといえます。
この時の母性は母親という意味ではなく、ありのままの自分を包み込んでくれる存在という意味であり、父親や祖父母、優しかった先生を反映している場合もあります。
一方、結婚には役割があります。権利や義務が生じ、恋愛の“幼児性”に対して“社会性”を求められます。「好きなことを仕事にすると純粋に楽しめなくなる」ことがあるように、恋人同士の甘い時間が、窮屈な日常と化すこともあります。
結婚という社会的な役割や機能が強まった結果、不倫という概念が生まれました。結婚が文化と考えると、不倫は感情的で、その背景には“甘え”があります。
結婚後も不特定の女性と関係を持ち続けた男性のAさんは、「頭では悪いことをしているという理解はしていました。それでも、バレなければ傷つけないと思っていました」と語りました。
性依存や性加害の相談の中でも、「バレなければ傷つけない」という発言は度々聞かれます。相手を軽視している言葉に聞こえますが、この背景には自らの行為を、最後には許してもらえると思い込んでいる“甘え”が存在しています。
甘えを求めているのは一方だけではありません。自傷行為や性依存で入退院を繰り返していた女性のBさんは「相手に恋人がいても、結婚していても関係ありませんでした」と語りました。
「愛されていないことは分かっています。本当は自分が自分を愛してあげる方がいいことも。それでも自分を好きにはなれないんです」と語りました。一時的にでも甘えの時間を作り、自分という存在を確かめようとしていたと考えられます。
さらに、相手が母性を発揮してつながってしまうケースもあります。
会社内で不倫をしていた女性のCさんは、男性の「妻とは上手くいっていない」という言葉を信じて「私が守ってあげなければと思っていました」と語りました。
Cさんは周囲から正義感があり、明るくて優しいと評判でしたが、不倫発覚後は非難され、退職を余儀なくされました。Cさんは「信じてしまった自分が悪いんです」と寂しそうに語りました。
不倫は感情的な現象と考えても、配偶者や関係者に大きな傷を与えます。結婚生活が破綻という結末を迎えることも少なくはありません。どうすれば不倫を防ぐことができるのでしょうか。
一つ目は、“甘え”の時間を結婚生活に確保しておくことです。互いのできなさを指摘し合い、厳しく律するのではなく、甘えのスタイルを一定程度は認め合い、安心できる関係を作ることが大切です。
二つ目は、結婚生活におけるプライベートな時間を大切にすることです。本能は隠すものという認識が私たちにはあります。結婚生活をオープンにし過ぎると、公の場での関係が家庭内でも継続してしまい、社会的な役割から抜け出せなくなる恐れがあります。
三つ目は、自分だけの趣味や遊びの時間を作り、子供の頃のような楽しい時間を作ることです。昔遊んだ物を集めてみたり、映画や遊園地などの夢のような世界に浸ってみたり、甘い物を食べるといったことも有効です。
大人になると、仕事や家庭、社会人として気を使うことも増えますが、そんなとき「甘えたい」という感情が出るのも自然なことです。誰も傷つけることのない甘えの時間を作り、自分の感情と上手に付き合っていくことが大切です。