危機管理「根回しはきちんとやったほうがいい」感染者ゼロの岩手県・達増拓也知事に単独インタビュー【3】

渡辺 陽 渡辺 陽

勝海舟の「無血開城」「焦土作戦」

――必ず根回しが必要なのですね。

達増知事 公表する時には、確実に実行に移すことができ、みんなその通りにやれるというお膳立てをしてから公表したほうがいいと思います。

幕末、薩摩長州の官軍が江戸に攻めて来た時、勝海舟が西郷隆盛と談判して江戸城を明け渡しが決まりました。その時、勝海舟は、もしも官軍が言うことを聞いてくれなかったら、江戸を火の海にする準備をしていたそうです。

勝海舟は、火消しをしていた新門辰五郎と日頃から仲良くしていたのですが、火消の人たちに火をつけさせ、江戸前の漁をしている漁師たちの船に江戸の人たちを乗せて、どんどん千葉のほうに逃がそうとしたのです。任侠(当時のやくざ者)の親分とも親しかったので、そういう人たちに治安の維持を任せようとしました。いざとなったらそういうことができるお膳立てをした上で西郷隆盛との談判に臨んだのです。

やはり危機管理においては、あらゆる団体や組織をフルに動かして合意を得て、「いざ動かすぞ」という時に速やかに動かせるようにしてから、正式に発表したり交渉したりするということがポイントになります。

県の幹部会議で幹部職員にこの話をして、それぞれ担当の団体や組合などと普段から十分意思疎通をして、何かあったらお願いできる、動いてもらえるような関係を日頃から築いておくように言っています。

第2波、第3波を防ぐ鍵は水際対策

――第2波、第3波が来るのではないかと懸念されていますが。

達増知事 3月、4月あたりの日本における感染者数の山を見ますと、欧米を中心とした帰国者からの感染の山が日本全体の感染者の山を作り出しているところがあります。帰国者の感染者数が減り始めたところで、国内の感染者数も減り始めているのです。

重要なのは水際対策です。海外から感染者が大勢入ってこないようにすれば、同じような山はもうできないと思っています。

日本国内で感染者数が減少すると、海外との往来を始めようかという話になってきますが、そこをうまくコントロールして、外国から感染者がどどっと入ってこないようにする必要があります。

いま北九州や札幌で起きているようなぶり返しというのは、あちらこちらで時々起きるのでしょうけど、第2波というくらいの大きな山はできないと思います。

――海外からのウイルスの流入を防ぐ、水際対策が重要なのですね。

達増知事 政府が先頭に立ってしっかり水際対策を講じ、そこがきちんとできていれば、地方はぶり返しに注意すればよい。一人、二人の感染がいつ起きるか分からない、クラスターが起こるかもしれないという想定のもと、そこに丁寧に対応するよう気を付けておいて、さらに、そうしたことが起こらないよう感染対策を住民の皆さんや企業、事業者、病院などの施設にお願いすれば、それほど大きな事態にはならないと考えています。

――岩手県としては、いままでと変わらない感染対策を粛々と行うのでしょうか。

達増知事 そうですね。感染対策としては、軽症者用のホテルや旅館などの宿泊施設を確保し、そこに軽症者を入れてもらう手配は既にしてあります。いまのところ感染者は出ていませんが、いつ出てもいいように、そういうところはきちんとやっています。

◆達増拓也(たっそ・たくや)1964年6月10日生まれ。岩手県盛岡市出身。東京大学法学部を卒業後、1988年に外務省入省、91年米国ジョンズ・ホプキンス大学国際研究高等大学院修了。衆議院議員(連続4期当選)を経て、2007年岩手県知事、現在4期目。2012年度ベスト・ファーザー イエローリボン賞。尊敬する人物は新渡戸稲造、好きな言葉は「浩然の気」、趣味は合唱、テニス。血液型O。

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